退職金がないと老後破産する?
「自分が勤めている会社には退職金制度がないけれど、同じような状況の方はどの程度いるのだろうか?」と気になっている方もいることでしょう。
一般的な退職金の状況を知りたいと考えている方のために、退職金がない会社の割合と退職金の平均給付額について解説します。
退職金がない会社の割合
1997年頃は、会社に退職金制度があることが一般的でした。しかし、退職金制度はここ数十年の間に大きく変化しています。
東京都産業労働局の調査資料によると、2022年の中小企業における退職金制度を導入していない会社の割合は28.3%という結果になっています。
つまり、退職金制度のない中小企業の割合が4社に1社ほどあるという状況です。
出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」
また、退職金制度があっても退職金の水準が低下している会社や、退職金制度自体を廃止する会社が多くなっています。
一方で、企業が掛け金を積み立てて従業員自身が運用する企業型確定拠出年金を導入する会社が増加しています。
退職金の平均給付額
退職金の実際の給付額は、会社や人によって異なります。一般的に勤続35年以上で定年退職する場合、1,500万円から2,000万円程度が退職金の目安です。
加えて企業の規模が小さいほど退職金制度がない傾向が見られます。そのため、ゆとりある老後生活を送るのに十分な退職金を受け取れるのは、公務員や大手企業などに限られるケースが多いといえます。
退職金だけに頼らずに、しっかりと老後資金の計画を立てておくことが大切です。
早めに備えれば大丈夫
「退職金がないので、老後破産してしまいそう」と心配している方も、早いうちから計画的に老後資金を準備することで、老後破産のリスクを回避できます。
具体的な老後資金の備え方については、後述します。
老後資金はいくら必要?
老後資金がいくら必要かを判断する際には、老後の生活に必要な金額と将来受け取る公的年金額を把握しておくことが大切です。
老後の月々の平均的生活費
老後の月々の平均的生活費は、家族構成、生活レベル、持ち家か賃貸か、健康状態などで異なります。
総務省統計局の調査によると、2023年時点の65歳以上の夫婦のみの無職世帯における消費支出は約25万円です。
また、生命保険文化センターの調査によると、ゆとりある生活を送るために必要な2人世帯の1ヵ月の生活費は約38万円という結果になっています。
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」
生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」
老後の月々の平均公的年金受給額
日本の公的年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2種類です。国民年金は20歳以上60歳未満のすべての国民が対象ですが、会社員や公務員は国民年金と厚生年金の両方が対象となります。
厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金受給者の平均年金月額は1ヵ月当たり約5.6万円、厚生年金受給者の平均年金月額は1ヵ月当たり約14.4万円です。
例えば会社員の夫と専業主婦の妻の場合、上記をもとに計算すると、月々の年金受給額は約20万円になります。
月々の平均公的年金受給額について説明しましたが、将来受け取る年金額は加入期間や現役時代の収入によって異なります。
具体的な金額を知りたい場合は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」を利用しましょう。自分の過去の年金納付状況や将来受け取る見込み額を確認できます。
「ねんきん定期便」は日本年金機構から毎年誕生月に届くはがきで、直近13ヵ月の年金記録が記載されています。35歳、45歳、59歳になる誕生月には、全期間の年金記録が記載された封書が届きます。
「ねんきんネット」はスマートフォンやパソコンで24時間いつでも利用可能で、過去の年金記録の納付状況の確認や将来受け取る年金額の試算ができます。
▼ねんきんねっと
https://www.nenkin.go.jp/n_net/
不足分を用意する
退職金がない場合、余生で月々必要になる生活費から、将来受け取り可能な年金額を差し引いた不足分を、余生の年数分用意することが必要になります。
平均的な生活の場合、ゆとりある生活の場合、長生きする場合の3つについて、月々いくら不足するのか見てみましょう。
最初に、夫婦2人世帯における平均的な生活を送る場合の1ヵ月当たりの不足額を計算してみましょう。
生活費(約25万円)-年金額(約20万円)=不足額(5.0万円)
仮に65歳で定年を迎え、日本人の平均寿命に近い80歳までの15年間で計算すると、合計900万円が不足することになります。
次に、ゆとりある生活を送る場合の1ヵ月当たりの不足額を計算してみましょう。
生活費(約36万円)-年金額(約20万円)=不足額(16万円)
平均的な生活の場合同様、65歳から80歳までの15年間で計算すると、合計3,264万円が不足することになります。
最後に、長生きする場合の1ヵ月当たりの不足額を見てみましょう。
100歳まで生きると仮定し65歳から100歳までの35年間で計算すると、平均的な生活を送る場合で合計2,100万円、ゆとりある生活を送る場合で合計6,720万円が不足することになります。
これまでの時代なら十分な金額であるはずの老後資金も、人生100年時代ともいわれている現在においては、足りなくなる可能性が高まっています。
老後資金がいくら必要なのかは、家族構成、生活レベル、持ち家か賃貸か、健康状態、寿命などで大きく異なります。
自分の場合に当てはめてシミュレーションを行ない、いくら不足するのか把握することが大切です。そして、早めの対策を心がけましょう。
退職金がない方が老後資金を備える方法
自分の老後の生活費や将来受け取る年金額を確認し、不足額をシミュレーションした結果、老後資金が心配になったという方もいることでしょう。
ここからは、退職金がない方が老後資金を備える方法について、具体的に解説していきます。
老後資金を備える方法には、次のようなものがあります。
・ 貯蓄しておく
・ 固定費を見直す
・ 変動費を見直す
・ 定年後も働く
・ iDeCoで積み立てる
・ 新NISAで積み立てる
・ 持ち家をリースバックして現金化する
・ 資産を運用する
貯蓄しておく
退職金制度のある会社では、退職金を準備するために給与や賞与を抑えてその分を別に積み立てています。
一方退職金制度のない会社は、その必要がないため給与や賞与が高い傾向です。現役時代から計画的に貯蓄しておくようにすれば、退職金がないリスクを軽減できます。
例えば22歳から60歳までの38年間で3,000万円の老後資金を貯めたいと考えている場合、毎月約6.6万円を積み立てる必要があります。
積み立て開始が遅くなると、毎月の積立金額を増やさなければ目標達成できなくなるため、老後になって後悔しないよう、できるだけ早い時期に積み立てを開始することが大切です。
積み立て方法には、普通預金と定期預金があります。それぞれの特徴を理解して、どちらにするか決めるとよいでしょう。
普通預金で積み立てれば、いつでも引き出せて自由度が高いというメリットがあります。金利を得たい場合や引き出せないようにしたい場合は、定期預金を選びましょう。
固定費を見直す
固定費とは毎月必ず出ていくお金のことで、居住費、通信費、保険料などが該当します。固定費の見直しは手続きの手間がかかりますが、一度実行すれば節約がずっと続くため、とても効果的です。
次のような項目を、優先的に見直しましょう。
・家賃が安い所に引越しをする
・電気、ガス、水道の使い方を見直す
・住宅ローンの繰り上げ返済や借り替えをする
・スマートフォンの料金プランを変更する、格安スマホへ切り替える
・各種保険の解約、見直しを検討する
・使っていないサブスクリプションサービスを解約する
変動費を見直す
固定費と合わせて変動費の見直しをすることで、節約効果がより大きくなります。
次のような点に注意するとよいでしょう。
・無駄な買い物をしない
・まとめ買いをする
・外食を減らす
・毎週の食費を決めて買い物をする
・交際費を抑える
定年後も働く
定年の年齢を引き上げる会社が増えていますが、現在の定年の主流は60歳です。
希望をすれば60歳からでも受給することができますが、基本的に年金の受給開始年齢は原則65歳になります。
そのため原則受給開始年齢を65歳とした場合、60歳で仕事を辞めてしまうと5年間無収入になってしまいます。
勤務先の再雇用制度を活用したり、経験やスキルを活かして再就職したりして、定年後もできるだけ長く働くことも一案です。定年後も働くことは、社会とのつながりを保てるというメリットもあります。
ただし、定年後も長く働くためには健康でなくてはなりません。定期健康診断や人間ドックを活用して、健康維持に努めましょう。
iDeCoで積み立てる
iDeCoは、加入者が掛け金を運用しながら積み立てていく個人型確定拠出年金です。定期預金や保険のほか、投資信託のような投資性商品も選択できます。
また、iDeCoには以下のような特徴があります。
・月額5,000円から始められ、積み立てたお金は60歳以降に受け取れる
・支払った掛け金が全額所得控除でき、運用益が非課税になる
・一度にまとめて受け取れば「退職所得控除」が、年金として受け取れば「公的年金等控除」が適用され、それぞれ一定金額までは税金がかからない
・加入期間が10年に満たない場合、受け取れる年齢が引き上げられる
元本を上回り利益が出る可能性もありますが、元本割れのリスクもあります。
そのため、運用方法や金融機関の選び方はとても大切です。
新NISAで積み立てる
NISAという制度は、株式や投資信託の配当金や売却益が非課税になる形で開始されました。そして、2024年1月に、より効率的に運用できる「新NISA」が誕生しました。
新NISAでは、主として「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能になりました。
加えて、「年間投資上限額の拡充」や「非課税期間の無期限化」によって、効率的に資産形成ができるようになっています。
新NISAには次の特徴があります。
・運用益が非課税になる
・非課税保有期間は無期限
・投資枠はつみたて投資枠と成長投資枠の合計で年間360万円、生涯1,800万円
・投資枠は売却すると翌年に復活する
持ち家をリースバックして現金化する
リースバックとは自宅を売却して現金化し、その後も賃貸物件として住み続けることができるサービスです。まとまった老後資金を準備する方法として、最近人気が高まっています。
リースバックには、以下のような特徴があります。
・大きな老後資金を得ることができる
・人知れずに自宅を売却できる
・固定資産税や火災保険料の支払いが不要になる
・自宅を売却しても、そのまま賃貸契約で住み続けられる
・自宅を買い戻すこともできる
・慣れ親しんだ暮らしを変える必要がない
資産を運用する
積極的に老後資金を増やしたい場合や当面使う予定のないお金が潤沢にある場合、株や投資信託、不動産投資で、資産を運用することを検討してもよいでしょう。
ただし、投資にはリスクがあるため注意が必要です。資産を運用する際には、それぞれの運用方法の特徴を事前によく調べ、理解してから行なうようにしましょう。
まとめ
退職金がない方が老後資金を備える方法について解説しました。
現役時代から貯蓄し定年後も働く、生活費を見直す、iDeCoや新NISAで積み立てるなど、老後資金を備える方法はたくさんあります。
「退職金がなくて老後破産しそうで心配」という方は、自分に合う方法を選んで早めの対策を心がけましょう。
齋藤 彩(さいとう あや)
独立系FPとして資産運用や保険提案、ローン、住宅購入などの個人向け相談業務を中心に、中小企業への企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の導入支援も行なう。また、お金の知識をわかりやすく伝えるため、金融メディアへの執筆・監修活動もしている。
<保有資格>CFP、1級FP技能士