「老後に固定資産税を払えないかもしれない」「納めないと自宅はどうなるの?」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
年金暮らしで収入が減る、無職などの経済的な理由で納税できない場合、最適な方法を知っておくことが大切です。
本記事では、老後に困らないための固定資産税の基礎知識をはじめ、払えないとどうなるのか、免除制度、知っておきたい5つの対処方法をわかりやすく解説します。
老後の生活が楽しく過ごせるよう、記事を読んでポイントをしっかり押さえておきましょう。
固定資産税が払えない!老後に困らないための基礎知識
持ち家などの不動産を所有すると、年ごとに固定資産税がかかります。老後に払えないと困らないために、まずは基礎知識をきちんと把握しておきましょう。
固定資産税について
固定資産税は、土地や家屋などに課税される地方税です。毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に登録のある所有者は、納税する義務があります。
課税対象となるおもな固定資産は、以下の3つです。
▼土地
・宅地、山林、田畑、牧場、原野、山林、池沼 など
▼償却資産
・機械、装置、構築物、工具、備品 などの事業用資産
例えば、個人で戸建てやマンションなどの持ち家を所有している場合は、課税の対象です。建物と土地は、税額を別々で計算することも覚えておきましょう。
建物は、年数が過ぎるごとに価値が減少します。しかし、土地は、災害の影響による地割れなどよほどの出来事がない限り、価値は下がりません。
また、建物の固定資産税の基準となる課税評価額については、20万円に満たない場合、固定資産税の支払いを免除してもらえます。
なお、固定資産を持つと、生涯払い続けなければいけないことも心得ておきましょう。
償却資産に関しては、事業を行なっている方が対象のため、一般の方は考慮する必要はありません。
固定資産税の計算方法
固定資産税は、「土地・建物の固定資産税評価額×税率」で計算します。税率は自治体により異なる可能性がありますが、一般的には1.4%です。
固定資産税評価額は、3年に1回「評価替え」という価格の見直しが実施されています。土地や建物などの固定資産税評価額は、一般的に売買価格の70%程度で計算されることが多い傾向です。
なお、固定資産税評価額は年ごとに各自治体から送られてくる固定資産税課税明細書に記されているので、確認しておくとよいでしょう。
固定資産税の納付時期と手順
固定資産税の納税通知書は、各自治体から毎年4月~6月頃に送られてきます。
支払いの時期は、自治体により若干異なります。6月・9月・12月・2月の年4回の分割払いが一般的ですが、年1回の一括払いも可能です。
固定資産税を納付する際は、金融機関の窓口やコンビニエンスストア、口座振替を利用できます。
老後に固定資産税が払えないとどうなる?
老後に固定資産税が払えないおもなケースは、年金のみで収入が少ない、不動産(空き家)を相続した場合などが代表的です。
また、所有している不動産の地価が高騰して固定資産税が上がり納められないケースもあります。
もし固定資産税が払えない場合、どうなるのでしょうか。以下に詳しい内容をまとめました。
地方自治体より支払いの催促がある
固定資産税の納税通知書に書かれている納付期限を過ぎると、地方自治体より支払いの督促状が届きます。督促状は納付期限を過ぎてから20日以内に発送されます。
さらに、督促状の発送でかかる行政手数料も別で払わなければなりません。
そのため、固定資産税の納税通知書に記されている納付期限を過ぎてしまい、督促状が届いたら、速やかに納付しましょう。
滞納すると延滞金が生じる
固定資産税を払えず納付期限をすぎてしまうと、遅れた1日目から延滞金が発生します。
延滞金は、納付期限後1ヵ月以内の場合は原則年7.3%、もしくは「延滞税特例基準割合+1%」(※1)の いずれか低い割合で加算。
1ヵ月を超える日以降の場合は原則年14.6%、または「延滞税特例基準割合+7.3%」(※2)のいずれか低い割合での加算となります。
令和4年1月1日~令和7年12月31日における延滞税特例基準のほうでの割合は、※1の場合2.4%、※2の場合8.7%のため、今回はこれらの数字を使用して計算をしてみます。
【延滞金の割合】
・納付期限後1ヵ月以内:年2.4%
・1ヵ月を超える場合:年8.7%
【延滞金の計算方法】
・延滞金=固定資産税額×延滞の日数×延滞金の割合÷365日
15万円の固定資産税を60日間滞納した場合、以下の手順で計算します
■1ヵ月以内(31日分)の延滞金
→[150,000円×31日×2.4%÷365日=305円(1円未満の端数は切り捨て)]
■1ヵ月を超えた期間(29日分)を延滞金
→[150,000円×29日×8.7%÷365日=1,036円(1円未満の端数は切り捨て)]
■2つの延滞金の合計
→[305円+1,036円=1,341円→1,300円(100円未満の端数は切り捨て)]
よって、1,300円の延滞金を支払わなければなりません。
固定資産税の支払いが遅くなるほど延滞金の金額は増えるため、負担が大きくならないよう早めの納税をおすすめします。
なお、年ごとや実施期間によって延滞金の加算割合は変わります。
財産を差し押さえられる
督促状の発送日から数えて10日以内に固定資産税を支払っていない場合、地方税法により財産を差し押さえなければならないルールがあります。
事前に財産の差し押さえを実行する旨の連絡(文書や電話、直接訪問)があり、自治体によっては催告状が送られてきます。
放置し続けると滞納者の承諾を得ずに財産調査が行なわれるため、注意しましょう。
差し押さえられる対象は、預貯金や不動産、動産(現金や商品、自動車など)、給料、生命保険の解約返戻金など金銭的価値があるものです。
公売・競売にかけられる
差し押さえられた土地や財産が公売・競売にかけられ、買い手が見つかると売却されることになります。
自宅が売却されたら第三者の所有物になり、速やかに退去することとなり、以降自宅に住み続けることはできません。売却で換金された金銭が、固定資産税の支払いに充てられます。
老後に固定資産税が払えないとき免除される制度と対象者
老後であっても固定資産税の未払いは避けなければなりません。ただし、条件によっては減免や徴収を先送りできる場合もあります。ここからは、免除される制度とその対象者をまとめました。
自分に当てはまる免除制度があれば、各自治体へ早めに相談しましょう。
減免制度を利用できる対象者
減免の対象になれば、固定資産税が免除、または軽減される可能性があります。
減免の対象になるには、生活保護受給者、自己所有の土地や建物(固定資産)が災害などにより甚大な被害を受けた方など、一定の要件を満たしていることが必要です。
年金だけで生活している、という理由だけでは対象にはなりにくいでしょう。
減免される金額は各自治体で異なり、それぞれの事由や被災の程度で決定されるのが一般的です。
徴収猶予を利用できる対象者
徴収猶予は、固定資産税の支払いを一定の期間において先送りできる制度です。病気や災害、事業の休廃業などで一時的に支払えない事情がある方が対象になります。
各自治体で利用できる基準に満たす要件が異なるため、必ず確認しましょう。
換価の猶予を利用できる対象者
換価の猶予は、差し押さえを受けている財産などの売却が一定の期間において猶予される制度をいいます。
税金を支払う誠実な意思がある、別の税金で滞納していない、すでに差し押さえを受けており、固定資産税を納めると一時的に事業の継続や生活を保つのが難しいなど、いくつかの条件に該当すると対象者として認められます。
換価の猶予を受ける際には、財産関連の一覧表や収支の明細などがわかる書類を提出することが必要です。
滞納処分の停止を利用できる対象者
滞納処分は、固定資産税などの税金が未納かつ督促に応じないとき、差し押さえた財産を公売にかけて強制的に徴収されることです。
生活を維持できないほど困窮するおそれがある方は、滞納処分停止の対象者となるケースがあります。
滞納処分の停止を認められると、未納の固定資産税の納付義務が消滅します。しかし、対象条件のハードルが厳しいため、老後でも認められるかは場合による点にも注意が必要です。
老後に固定資産税が払えないときの対処方法5選
収入が年金のみで生活が苦しいなどさまざまな理由で、老後に固定資産税が払えない方もいるのではないでしょうか。
ここからは、困ったときに知っておきたい対処方法を5つご紹介します。
各自治体の窓口に相談する
老後に固定資産税を支払えない状況であれば、居住地の自治体の窓口に相談するのが先決です。
納税通知書や督促状を無視すると財産の差し押さえが実行されるため、早めに連絡しましょう。
事情を説明して納税する意思を伝えれば、対処方法を提案してもらえます。
そのため、経済的に支払いが困難だとわかった時点で迅速に連絡することが大切です。
分納する
分納は、税金を分割して納めることをいいます。
固定資産税の支払いは原則一括、または年4回に分けて納付するのがルールです。難しい場合は各自治体に相談すると、年12回払いなどより細かく分けての納付が可能となります。
注意点として、分納を依頼したあとに滞納すると、財産を差し押さえられるケースがあることは留意しましょう。
リースバックを活用する
リースバックは、自宅を売却後に賃貸契約を結び、家賃を支払って同じ家に住み続けられるシステムです。
メリットとして、売却後は自宅の所有者が不動産会社に変わるため、固定資産税を払う必要がありません。また、売却によって得た資金は使い道の制限がないため、家賃や老後の貯蓄に充てられるのが利点です。
デメリットは、不動産仲介と比べて売却価格が安くなる、家賃が周辺の相場より高くなる可能性があることなどが挙げられます。
家賃は、売却価格を基本として計算されるため、売却価格が高くなるほど家賃が上がることを念頭におきましょう。
また、リースバックには買い戻し特約を契約できるケースもあります。もし資金が確保できた場合に自宅を取り戻したいときにおすすめです。
売却する
固定資産税を分納などの方法でも支払えない場合は、財産を差し押さえられる前に土地や建物を売却することも検討しましょう。手放せば固定資産税を納付する義務はなくなります。
売却後は、生活費などを確保するためのまとまった資金が得られるでしょう。また、売却した方が財産の差し押さえで公売・競売にかけられるより高値で売れる可能性があります。
ただし、買い手が見つかるまで時間がかかることがあるうえに、1月1日以降の売却だと原則その年の分の固定資産税は払わなければなりません。
不動産を担保として融資を受ける
固定資産税を支払えないときは、不動産を担保として融資を受けるのも一案です。
銀行やノンバンクなどが不動産担保ローンとしてサービスを提供しており、資金の使い道が基本自由であることがメリットです。
そのため、得られた資金を固定資産税や生活費の支払いに利用できます。借り入れの可能額は、不動産評価額の60%~80%程度です。
また、高齢者向けのローン「リバースモーゲージ」も選択肢に入れましょう。リバースモーゲージも自宅を担保に融資を受ける手段の一つです。
契約者が存命中の支払いは利息のみ、亡くなったときは自宅を売却して借入金を返済します。そのため、毎月の返済額を抑えられます。借り入れの可能額は、不動産評価額の50%程度です。
ただし、返済期間中に自宅の土地や建物の価値が下がると、融資限度額を見直される場合があります。
また、変動金利のため、市場の金利が上がると返済額が増えることも注意しなければなりません。
まとめ
老後を迎えてから「固定資産税を払えない」と困らないためには、納税を放置せずに早めに対処することが大切です。
自宅を所有している、不動産を相続して困っている方は、本記事の内容を参考にしっかり情報収集しましょう。
老後の暮らしを不安になりすぎず、快適に楽しく過ごせるよう、あらかじめあらゆる知識を得て備えておくことが大切です。
齋藤 彩(さいとう あや)
独立系FPとして資産運用や保険提案、ローン、住宅購入などの個人向け相談業務を中心に、中小企業への企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の導入支援も行なう。また、お金の知識をわかりやすく伝えるため、金融メディアへの執筆・監修活動もしている。
<保有資格>CFP、1級FP技能士