老衰とは、高齢に伴い身体機能が衰え、最終的に生命活動が終わる自然なプロセスのひとつです。
しかし、「老衰で亡くなるとはどういうことなのか?」と思う方や、大切な家族の状態と照らし合わせ、「前兆や初期症状はあるのか?」を知りたい方も多いでしょう。
そこで、本記事では、老衰の意味や症状、亡くなるまでの流れ、家族ができることを詳しく解説します。老衰が始まるサインのチェックリストもご紹介しますので、高齢のご家族がいる方は、ぜひ参考にしてください。
老衰の意味と定義
老衰とは、加齢によって全身の機能が衰え、徐々に生命活動が終息する状態を指します。
厚生労働省の死亡診断書記入マニュアルでは、以下のように定義されています。
死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。
老衰のポイント
・ 医学的には「自然死」とも呼ばれる
・ 特定の病気によるものではなく、身体の機能が少しずつ低下する
・ 多くの場合、食事量の減少や体力の低下から始まる
老衰は病気とは異なり回復が難しく、治療よりも穏やかな看取りが重視されることが多いです。
「老衰で亡くなる」とはどういうことか
老衰とは、身体のすべての機能が自然に低下していき最終的に亡くなる状態です。
食事量が減り、筋力が低下し、そののち意識レベルが低下していき眠りがちになります。
しだいに循環機能が低下し、手足が冷たくなり、血圧が下がるようになります。
このような状態が続き、数日~数週間のうちに呼吸が穏やかになり、最期を迎えることが多いです。
老衰は何歳ぐらいからなるのが一般的?
個人差がありますが、多くは80代後半~90代以降で老衰と診断されるケースが多いです。
「何歳で亡くなると老衰死と判断されるのか」といった明確な基準は設けられておらず、最終的には医師の判断に委ねられます。
また、健康状態や生活環境によって、老衰が始まる時期には違いがあります。
一般的に85歳以上になると、老衰と診断される割合が増えるとされていますが、60代や70代でも老衰と診断されるケースもまれにあります。
老衰の症状とは?苦しさはあるか?
老衰の進行はゆっくりとしたものがほとんどで、苦しみが少ないことが特徴です。
病気による急激な苦痛とは異なり、老衰は穏やかに身体機能が低下していくため、痛みを伴うことは少ないといわれています。
老衰の前兆・始まり・サイン・初期症状は?
もしかすると、ご家族の様子から「老衰が始まっているのかな?」と心配な方もおられるかもしれません。
老衰は突然起こるものではなく、少しずつ体の機能が衰えていくことで進行します。早い段階で老衰の兆候に気づくことで、今後に備えることができます。
そこで、以下に、老衰の始まりを示す具体的なサインや初期症状をチェックリストで詳しく解説しますので、参考にしてみてください。
食事の量が徐々に減少し、体重が落ちる
老衰が進むと、食欲の低下が最初に表れることが多いです。
具体的な変化のチェックリスト
・ 食事の量が減り、以前より食べられなくなった
・ 好きだった食べ物でも興味を示さなくなった
・ 水分摂取量が減少し、唇が乾いている
・ 体重が徐々に減少し、顔つきが痩せてきた
高齢になると、消化機能や代謝が低下し、エネルギーを多く必要としなくなります。
また、嚥下(飲み込む)機能が衰え、食べることが負担になることも影響します。
眠る時間が長くなり、日中もウトウトする
老衰が進行すると、活動量が減り、長時間眠ることが増える傾向があります。
具体的な変化のチェックリスト
・ 日中でもウトウトし、横になっている時間が長くなった
・ 夜間の睡眠が浅くなり、昼夜逆転することもある
・ 会話中でも眠ってしまうことが増えた
眠る時間が増える理由は、加齢とともに体力が消耗しやすくなり、少しの活動でも疲れやすくなるためです。
その結果、休息の時間が長くなり、睡眠時間が増えるのです。
言葉数が減り、会話が少なくなる
老衰が始まると、以前より話をする機会が減り、会話が少なくなることがよくあります。
具体的な変化のチェックリスト
・ 受け答えが短くなり、「うん」「そうだね」などの簡単な返事が増えた
・ 家族との会話に興味を示さなくなった
・ 電話や訪問時の対応が以前より淡泊になった
・ 以前より感情表現が少なくなった
言葉数が減る理由は、エネルギーの消耗を抑えようとする身体の働きや、聴力の低下、認知機能の衰えなどが影響するためです。
また、老衰が進むと感情表現が少なくなることもあります。
歩くのが難しくなり、転びやすくなる
老衰が進行すると、筋力が低下し、移動が困難になることが増えます。
具体的な変化のチェックリスト
・ 足元が不安定になり、転倒しやすくなった
・ 歩行速度が遅くなり、外出の機会が減った
・ 立ち上がる際に時間がかかる、または手すりが必要
・ 長時間立っているのが難しくなり、座って過ごす時間が増えた
歩くことが難しくなる理由は、筋肉量の減少や関節の動きの低下です。
転倒すると骨折のリスクが高まり、寝たきりにつながることもあります。
その他の老衰のサイン
以下のような変化も、老衰が始まっている兆候と考えられます。
身体の変化のチェックリスト
・ 皮膚が乾燥しやすくなり、シワが増えた
・ 爪が伸びにくくなり、薄くもろくなってきた
・ 便秘になりやすくなった
・ 排尿回数が減った
精神・認知の変化のチェックリスト
・ 興味関心が薄れ、好きだった趣味をやらなくなった
・ 物忘れが増え、話したことをすぐ忘れてしまう
・ 無表情になることが増え、感情の起伏が少なくなった
老衰の進行から死亡までの期間
老衰の進行スピードは人それぞれですが、前兆が見られてから亡くなるまでの期間は数週間~数か月程度とされています。
国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、老衰期間の平均は186日(2020年時点)、最も多い老衰期間は1か月と報告されています。
参考:国立社会保障・人口問題研究所 老衰死の統計分析
なお、食事が摂れず点滴のみで栄養を補う場合、余命はおおよそ3か月程度とされています。
一方、点滴を行わない場合、5~7日程度、長くても10日ほどで最期を迎えるケースが多いようです。
栄養が補給されなくなると体の機能は徐々に低下し、経口摂取が完全に止まると、1週間ほどで老衰死に至ることが一般的と考えられています。
老衰死の兆候
・ 意識が低下し、反応が鈍くなる
・ 手足が冷え、青みを帯びてくる
・ 皮膚に斑点が現れることがある
・ 呼吸が不規則になる(浅くなったり、間隔が空くことが増える)
・ 最期の数時間には、混乱した様子や強い眠気が見られることもある
この期間を穏やかに過ごせるよう、家族のサポートが重要です。
老衰から回復することはある?
基本的に、老衰が進行すると回復することは難しいとされています。
一時的に元気になることはありますが、長期的に見ると身体機能は低下していきます。
また、無理に食事をとらせたり、点滴を行うことが逆に負担になることもあります。
最期の時間を穏やかに過ごせるよう、医療的な延命よりも快適な環境づくりを意識することが大切です。
老衰が考えられるときに家族ができること5つ
老衰が進行している場合、家族は以下のようなサポートを心がけるとよいでしょう。
・ 食事や水分の無理な強要を避ける(本人が食べられる範囲で)
・ 快適な環境を整える(室温・湿度管理)
・ こまめなスキンシップ(手を握る、声をかける)
・ かかりつけ医と相談する(適切なケア方法を確認)
・ 穏やかな時間を共有する(家族で思い出話をする)
老衰が進行している高齢者に対しては、本人の状態を尊重したケアが重要です。
家族の支えが、本人にとって最も安心できるものとなるでしょう。
その他、これから迎える死への準備としては、以下のような手続き・話し合いを進めておくと安心です。
・ 延命治療に関する意向を家族で話し合う
・ 遺言書を準備し、希望を明確にする
・ 医療方針や延命措置について医師と相談する
・ 葬儀の希望や形式について確認する
・ 財産分与や銀行口座の管理・引き継ぎを整理する
葬儀や相続準備も必要ですが、なにより、意識があるうちに、伝えたいことを伝えてあげられるといいですね。
まとめ
老衰とは、病気ではなく加齢によって身体の機能が自然に衰えていく過程です。主な兆候として、食欲の低下、活動量の減少、睡眠時間の増加などがみられます。
一般的に老衰は苦しみが少なく、穏やかに最期を迎えることが多いため、家族としては無理な延命を求めるよりも、本人が快適に過ごせる環境を整えることが大切です。
老衰の進行を正しく理解し、適切なケアやサポートを行うことで、安らかな最期を迎えられるよう支えましょう。