役職定年とは?
スーツ
役職定年とは各企業で定められた年齢に達した社員が役職を解かれ、一般職や専門職として処遇される制度のことです。
人件費増加の抑制、役職ポスト不足の解消、組織の活性化などを目的とし、大企業の半数近くが導入しています。
ほとんどの場合は役職定年前と比べると、収入が減ることになります。
また、出世を目指してきた社員が一気にモチベーションをなくしてしまうケースもあるようです。
その一方、メリットもないわけではありません。
勤務時間が減り、役職によるプレッシャーから解放されます。
また、自由時間が増えて、定年後の人生に備えることができます。
まずはその実状を把握することが必要でしょう。
役職定年の成り立ちと背景
会社
役職定年が一般化したのは1980年代に入ってからでした。
高度成長期の終焉、高齢化社会の到来など、日本の社会の構造の急激な変化という背景が大きな要因でした。
55歳定年制から60歳定年制に移行した時期に、導入する企業が増えたのです。
詳しく見ていくと、3つポイントがあります。
1986年雇用者雇用安定法の改正
5年の延長を調整するための制度
大手企業ほど導入
1986年雇用者雇用安定法の改正
役職定年の制度が一般化した背景には、1986年の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正があります。
この改正によって、60歳定年が努力義務としてはっきり明文化されたのです。
5年の延長を調整するための制度
終身雇用が当たり前だった高度成長期には年齢ととも収入が右肩上がりになるのが当然でした。
しかし、超高齢化社会が現実のものとなりつつある今、かつてのような経済成長はのぞめません。
企業としても厳しい状況を乗り切っていくために、より効率の良い運営を目指すようになります。
定年の年齢が5歳上がることは高収入の50代後半の社員が増加し、企業負担が増えることを意味します。
また、人員ポストの不足、組織の代謝の悪化をもたらすことになってしまいます。
役職定年はそれらの変化への対応と賃金の総額の調整の役割を果たす制度として一般化してきました。
大手企業ほど導入
役職定年を導入している企業の比率は大手になるほど、高くなっています。
企業によって、設定年齢はまちまちですが、55歳、57歳というのがひとつの目安となるようです。
また雇用環境は年々変化しているので、今いる会社の制度がいつまでも継続するとは限りません。
つまり様々な事態を想定しておく必要があります。
役職定年のメリット
メリット
役職定年にマイナスのイメージを持っている人は多いのではないでしょうか?
しかしメリットもあります。
自由な時間が増える
人生を見つめ直すきっかけになる
定年後のための準備期間となる
企業も支援
自由な時間が増える
平社員に戻ると多くの場合は、それまでより就労時間が短くなります。
自由な時間も増えるので、趣味や家族サービスにまわすことができます。
人生を見つめ直すきっかけになる
役職定年を迎えることは出世レースからはずれることを意味します。
しかし悪いことばかりではありません。
役職に伴う責任がなくなり、プレッシャーから解放されるため、視野を広げるチャンスになります。
仕事も大事ですが、人生において大事なのは仕事だけではありません。
人生を見つめ直すいいきっかけになるのです。
定年後のための準備期間となる
役職定年は定年にソフトランディングするための準備期間にもなりえます。
早期退職したものの良い条件がなく、再雇用先が簡単には決まらないという話をよく聞きます。
役職定年制度によって今いる企業での場所を数年間確保できるのは大きなメリットでしょう。
再雇用に向けて、スキルを磨いたり、資格を習得したりする期間にもなります。
また、起業の準備をするための貴重な期間にもなります。
企業も支援
役職定年のプラス面を活かせるように、積極的に支援している企業もあります。
企業としても、役職定年を迎えた人材の能力や経験を有効活用するメリットは大きいでしょう。
企業側の取り組みをうまく活用することで、お互いにメリットのある関係を築ける可能性もあります。
富士通
富士通は役職離任制度を設け、離任した社員に積極的にキャリア支援を行っています。
社内だけでなく、社外での活躍の機会を増やすためのサポートをするということです。
NEC
NECでは56歳で役職定年を迎えます。
しかし最長1年間の能力開発休暇があります。
さらにセカンドキャリア準備金でサポートするセカンドキャリア支援制度もあります。
キリンホールディングス
キリンホールディングスの役職定年は57歳です。
その後、60歳までは、シニア経営職と名付けられた職に就くことになっています。
シニア経営職のキャリアを活かせるように考慮されて、作られた制度なのです。
役職定年のデメリット
デメリット
役職定年におけるデメリットは大きく分けると3つあります。
収入の減少
就労意欲の低下
立場の変化への順応が困難
収入の減少
役職をはずれると、役職手当もなくなるわけですから、ほとんどの場合、給料は下がります。
役職定年直前を100パーセントとすると、70~80パーセントくらいになるケースが多いようです。
退職金への影響を心配する声もありますが、多くの場合、退職金が大きく減ることはないようです。
就労意欲の低下
役職をはずれることを降格と捉える人もたくさんいるでしょう。
事実上、出世の道が閉ざされるので、モチベーションを保つのが難いケースもでてきます。
会議に呼ばれなくなった、社内の情報が集まらなくなった、取引先の態度が変わったなどがあります。
様々な変化に対応していくのは簡単なことではありません。
これまでに積み上げてきた技術、知識、経験を活かせる職場に異動となるのであれば、まだましです。
しかし閑職へと追いやられるケースもあり、仕事へのやりがいが感じられなくなる場合もあります。
立場の変化への順応が困難
管理職から一般職になり、昨日までの部下が今日からは上司、といったケースも出てきます。
管理職だったときの意識が捨てられず、新たな環境になじめないことにもなりかねません。
重要なのは、まず立場の変化を受け入れることです。
サポートする側に変わったことを自覚して、意識を変えていく必要があります。
定年前にできる準備
会社員
役職定年を迎えた時に、困惑したり、適応できないことがないように、事前に備えておくことが必要となってきます。
やれること、やるべきことはたくさんあります。
モチベーションの保ち方
役職定年は誰にでも訪れる可能性のあるものです。
形としては降格ということになります。
しかしあくまでも制度上のことなので、マイナス面ばかりに目を向けないことが大切です。
自分の役割がなくなった、存在価値がなくなったということではないのです。
次の世代をサポートする側になった、役割が変わったことをまず理解することが必要でしょう。
企業との距離を置くいい機会にもなります。
会社への依存度を減らしましょう。
そしてセカンドライフに備える期間と捉えると、プラス面も見えてくるはずです。
定活(定年前活動)の実行
定活とは定年に備えての準備と活動のことです。
役職定年は定年を迎えるための準備期間にもなります。
いずれにせよ、準備を始めるのは早いに越したことはありません。
定活は役職定年に備えることも含んだ活動と考えるべきです。
充実したセカンドライフを迎えるためにも、定活は不可欠です。
再就職のためのスキルを磨いたり、起業のための準備をしたり、情報収集したりできます。
やるべきことはたくさんあります。
来たるべき時のために最低でも50代から備えておくべきです。
可能であれば、40代からスタートしておくと、より良いでしょう。
定活とは?背景や始めるタイミング、具体的な準備を4つご紹介!
第三人生編集部
役職定年を定めている企業割合と適用年齢
高齢者 夫婦
役職定年を定めている企業はどれくらいあるのでしょうか?
また適用年齢は何歳なのでしょうか?
それぞれ平成19年の民間企業の勤務条件制度等調査による表を見ていきましょう。
企業割合【平成19年】
下記は役職定年制の有無別企業数割合を表した表です。
規模の大きい企業ほど、役職定年制を導入している割合が大きいです。
500人以上の企業では36.6%があると回答しています。
全体のトータルでは23.8% となっています。
平成21年度 賃金事情等総合調査(中央労働委員会)を見てみましょう。
役職定年制度を導入している大企業の割合は数字はもっと多くなります。
産業全体 役職定年あり なし
218 104 114
出典:『中央労働委員会 平成21年賃金事情等総合調査』
役職定年制度を導入していると回答している大企業が104です。
導入していないと回答している企業は114なので、47.7%となります。
つまり約半数の大企業が導入しているのです。
年齢【平成19年】
下記は 役職定年年齢(部長級・課長級)別企業数割合の表です。
部長級の場合は55歳がもっとも多くて38.3%、ついで57歳の24.8%となっています。
また課長級の場合も55歳がもっとも多くて45.3%、ついで57歳の16.1%となっています。
※役職定年年齢があるとした企業を100とした割合です
役職定年は公務員にも関係あるのか?
疑問
現在のところ、一般企業と違って、公務員には役職定年制は導入されていません。
ただし、これから先もないとは言い切れません。
定年を段階的に60歳から65歳に引き上げることを目指しています。
その変更に伴って、役職定年制の導入が検討されているからです。
平成30年8月に人事院から出された資料を見ていきましょう。
その中で、役職定年制の導入が提案されています。
具体的な数字でいうと、管理監督職員は60歳に達した場合、他の官職に降任もしくは転任とあります。
民間の役職定年に比べると、優遇されていると言えます。
しかしまだ検討段階なので、実際にどのような形になるかは見えていません。
いずれにせよ、なんらかの形で役職定年が導入される方向へ向かうのは間違いないでしょう。
役職定年は人生の準備期間
役職定年となった時に適応していくためには、事前の準備が必要となります。
まず重要なのは実際に役職を解かれた自分をイメージしておくことです。
社内の立場も変化するでしょう。
会議に呼ばれなくなった、社内の情報が入らなくなったなど、労働の環境も変わってきます。
こうした状況をマイナスと捉えるのも、プラスと捉えるのも自分次第です。
出世競争から解放され、責任の大きな立場ではなくなります。
プレッシャーが減ることによって、社外のことにも目を向ける余裕が出てきます。
役職定年は定年に向けての準備期間にもなります。
定年後の再雇用をスムーズにするために、やるべきことは多岐に渡ってあります。
役職定年は自分のキャリアの終焉ではなくて、セカンドライフのスタート地点でもあるのです。
そう考えると、見えてくる景色も変わってきて、やるべきことも見えてくるでしょう。