「生活保護受給者が亡くなった場合、葬儀費用はどうなるんだろう?」「葬儀費用が捻出できない」という不安を抱えている方もいるかもしれません。
本記事では、生活保護受給者の葬儀に関する葬祭扶助の申請方法から流れ、費用について詳しく解説します。
生活保護受給者の葬儀費用に関する疑問を解消し、ご遺族が安心して葬儀を執り行えるよう、必要な手続きをスムーズに行いましょう。
生活保護受給者の葬儀費用は誰が負担するの?
生活保護を受給している方が亡くなった場合、葬儀費用は大きな負担です。
ご遺族は、悲しみに暮れる中、経済的な不安も抱えなければなりません。生活保護を受給している方が亡くなった場合、葬儀費用の負担者は以下の順序で決定されます。
1. 扶養義務者(父母、子、祖父母、孫、曾孫、兄弟姉妹)
2. その他の親族
3. 自治体(引き取り手がいない場合)
扶養義務者や親族が葬儀費用を負担できる場合は、扶養義務者が喪主となって通常の葬儀を行えます。
一方で経済的に困難な場合は、「葬祭扶助」という制度を利用して火葬のみのシンプルな葬儀を行えます。
もしご遺体の引き取り手がいない場合は、代わりに自治体が代行するのが一般的です。この場合も、葬儀は火葬のみのシンプルなものとなります。
葬祭扶助とは
生活保護の受給者が亡くなった場合、「葬祭扶助」の制度を利用できる可能性があることが分かりました。では、「葬祭扶助」とはどういったものなのでしょうか。
葬祭扶助は、生活保護受給者やその家族が経済的に困窮している場合でも最低限の葬儀を行えるよう公費で費用を支援する制度のことです。
生活保護法に基づいて設けられた制度で、生活保護受給者が亡くなった際にも葬儀費用の一部を公費で負担してもらえます。
以下の条件のいずれかを満たす場合に利用可能です。
・同居の家族も生活保護世帯で葬儀費用を負担できない場合
・故人が生活保護を受給しており、遺族以外の方が葬儀の手配を行う場合
条件を満たす場合は、葬祭扶助を受けてみるのも良いでしょう。ここからは、葬祭扶助の支給額やカバーされない費用についてご紹介します。
葬祭扶助の支給額
葬祭扶助の支給額は自治体によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
・大人 : 209,000円以内
・子ども : 167,200円以内
葬祭扶助制度によって葬儀費用の一部が支給されますが、その範囲は必要最低限の費用に限定されます。具体的には以下の項目が対象です。
・ 遺体の搬送費用
・ 遺体の安置費用
・ ドライアイス代
・ 棺
・ 火葬料
・ 骨壺
また、葬祭扶助制度の支給額には上限が設けられています。故人の方々に遺産がある場合は、まず遺産を葬儀費用に充当し、不足分を葬祭扶助制度で補填する仕組みです。
葬祭扶助でカバーされない費用
葬祭扶助で支給されるのは「必要最小限の葬儀費用」に限られます。それ以外の費用は自己負担となるため注意が必要です。
たとえば、以下のような費用は葬祭扶助の支給対象外です。
・ 香典返しや会葬礼状の作成費用
・ お布施や読経料など宗教儀式にかかる費用
・ 会食や通夜振る舞いの飲食代
・ 祭壇のグレードアップ、豪華な棺や骨壺などのオプション費用
・ お花や装飾などの演出費用
葬祭扶助では原則として「直葬(火葬のみ)」または「火葬式(簡易な式+火葬)」が前提となります。
相殺扶助は、葬儀費用の足しにするための制度ではありません。あくまで葬儀費用が支払えない人のための救済措置制度であることを把握しておきましょう。
そのため、制度を利用する前に、支給対象となる費用と対象外の費用を把握し、どのくらいの費用が発生するのかを葬儀社に確認しておくと安心です。
葬祭扶助を利用した葬儀の特徴
社会福祉制度の葬祭扶助を利用して行われる葬儀は、「福祉葬」と呼ばれます。
福祉葬では、お通夜式や告別式といった従来の儀式が省略されるため、火葬のみのシンプルなものとなります。
特定の宗教儀式は行われず、装飾や追加サービスも制限されるため、最低限のシンプルな形式です。
ここからは、葬祭扶助の申請や葬儀の流れその他の利用可能な制度についてご紹介します。
葬祭扶助の申請と葬儀の流れ
葬祭扶助を申請するには、まず、亡くなった方の住民票所在地の市区町村役場の福祉事務所に連絡し、申請の手続きについて相談する必要があります。
申請に必要な書類は、以下の通りです。
また、葬祭扶助を利用した際のご葬儀の流れは、以下の通りです。
1. 死亡の確認と福祉事務所への連絡
2. 葬祭扶助の確認と葬儀社の選定
3. 遺体の搬送と安置、火葬の実施
4. 葬儀費用の支払い
1. 死亡の確認と福祉事務所への連絡
亡くなった方の死亡を確認したら、まずは民生委員またはケースワーカーに連絡しましょう。
生活保護受給者が住んでいる地域の役所の福祉課(福祉係)にも連絡し、葬祭扶助の申請をする必要があります。
葬祭扶助の申請は、ご葬儀を執り行う方の居住地を管轄する福祉事務所にて手続きしてください。申請は葬儀前に完了させる必要があります。
申請者と故人の住民票の管轄が異なる場合、通常は申請者の住民票所在地の福祉事務所に申請を行います。
ただし、自治体によって支給額が異なる場合があるため、故人の住民票所在地の福祉事務所にも問い合わせて確認しておくと良いでしょう。
2. 葬祭扶助の確認と葬儀社の選定
続いて、葬儀社に葬儀の依頼をする際に故人が生活保護を受給していたことを伝え、葬祭扶助の利用を希望する旨を伝えましょう。
葬儀社は、葬祭扶助の手続きに関する知識や経験が豊富です。葬儀社に相談することで、葬祭扶助の利用に関する手続きや必要な書類について、適切なアドバイスを受けられます。
また葬祭扶助の利用を検討する際には、葬儀社の担当者とよく話し合って、必要な手続きをスムーズに進めることが大切です。
3. 遺体の搬送と安置、火葬の実施
故人様を、ご自宅または葬儀社の安置施設へ搬送し、火葬までの間の安置を依頼します。
火葬式は、葬祭扶助の範囲内で執り行われる葬儀の形式の1つであり、お通夜式やご葬儀・告別式、読経などの宗教儀式を省いた簡素なものです。
4. 葬儀費用の支払い
福祉事務所の職員が、亡くなった方の状況や葬儀費用などを確認します。
葬儀費用が葬祭扶助の対象となる場合、福祉事務所から葬儀費用が支給されます。葬儀費用の支払いは、福祉事務所から葬儀社へ直接支払われる仕組みです。
ここまで、葬祭扶助の申請と葬儀の一般的な流れを解説しました。
葬祭扶助の申請や手続きに関する詳細は、市区町村によって異なる場合がありますので、必ず管轄の福祉事務所や役所にご確認ください。
葬祭扶助や葬儀に関しては葬儀社にも相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
その他の利用可能な制度
葬祭扶助以外にも、利用可能な制度はいくつかあります。制度の例は以下の通りです。
・ 健康保険組合からの葬祭費・埋葬費
・ 火葬料の補助制度
健康保険組合からの葬祭費・埋葬費
健康保険組合から葬祭費・埋葬費が支給される場合があります。
国民健康保険の葬祭費は、東京都23区では7万円です。支給額は地域によって異なるため、管轄の役所に確認しておきましょう。申請期限は葬儀の日の翌日から2年以内です。
火葬料の補助制度
火葬料の補助制度がある地方自治体では補助金が支給されますので、あわせて確認しておくと良いでしょう。
火葬料の補助制度についても、健康保険組合からの費用の支給とあわせて管轄の役所に確認することをおすすめします。
葬祭扶助の申請前に葬儀を行ってしまった場合はどうなる?
葬祭扶助を利用するには、原則として葬儀を始める前に福祉事務所へ申請し、決定通知を受けなければなりません。
しかし、身内が突然亡くなったなどの事情で、申請を行う前に火葬や葬儀を進めてしまうケースもあります。
結論から申し上げますと、葬儀後の葬祭扶助の申請は認められていません。制度上は「事前の承認」が必須とされているためです。
「制度の存在をそもそも知らなかった」場合でも、事後申請は認められていないため、改めてこの記事を読み、必要に応じて早い段階で確認しておくことが大切です。
葬祭扶助を利用する際の注意点
・ 葬祭扶助は必要最低限の葬儀費用を支給
・ ご遺族が葬儀費用を支払える場合は葬祭扶助を受けられない
葬祭扶助は必要最低限の葬儀費用を支給
生命保険の葬祭扶助を利用して葬儀を行う際、いくつかの重要な点に注意が必要です。
まず、葬祭扶助の対象は、被保険者または被扶養者の死亡が原因となる葬儀のみです。そのため、事故や病気など、他の原因による死亡の場合は、葬祭扶助は適用されません。
さらに、葬祭扶助は葬儀費用の全額を負担するものではなく、一部を負担する制度です。葬儀費用が葬祭扶助の金額を上回る場合は、その差額を自己負担する必要があります。
また葬祭扶助の申請には、死亡診断書や葬儀費用明細書などの書類が必要です。書類を揃えるのには一定の期間を要するため、葬儀を急ぐ場合において葬祭扶助の利用が難しい場合があります。
ご遺族が葬儀費用を支払える場合は葬祭扶助を受けられない
故人様が生活保護を受給されていた場合や遺族が葬儀費用を全額負担できる場合は、葬祭扶助の対象から外れます。
遺族が経済的に余裕があり、葬儀費用を全額支払う能力がある場合は、葬祭扶助は受けられないということです。
また、葬祭扶助によって支給される火葬費用と合わせて、遺族がその他の葬儀費用を負担して葬儀を行うことはできません。
葬祭扶助は、あくまでも経済的に困窮している遺族に対して火葬費用を支援するための制度であり、葬儀全体を賄うための「足しにする」ものではない点にご注意ください。
生活保護者の葬儀に関してよくある質問
ここでは、生活保護者の葬儀に関するよくある質問についてまとめました。
身寄りのない生活保護受給者の葬儀はどうなる?
生活保護を受給している方の中には、親族や家族とのつながりが薄く、亡くなった際に葬儀の手配をする人がいない、いわゆる「身寄りのない状態」で最期を迎える方もいます。
この場合、基本的には本人が亡くなった際に居住していた自治体の福祉事務所が中心となり、火葬などの対応を行います。
具体的には、自治体が「葬祭扶助」の制度を利用して簡易的な葬儀(主に直葬)を手配し、必要最小限の対応を取るという流れです。
喪主や遺族が不在のため、通夜や告別式といった儀式は一般的には行われません。火葬後の遺骨は、市区町村が一定期間保管し、引き取り手が現れない場合は合葬墓や共同墓地などに納骨されることがあります。
身寄りがない生活保護受給者は、遺言書やエンディングノート、遺品の処分準備などを進め、制度の理解と行政との連携が大切です。
香典を受け取るとどうなる?
生活保護受給者の葬儀に際し、親族や知人から「香典」や「お見舞金」などの支援を受けるケースがあります。
しかし、これらのお金を受け取ることによって、生活保護の受給に影響が出るのではないかと不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、香典は「収入」として認めない決まりがあります。そのため、生活保護受給者であっても、「香典を受け取った」という報告は不要です。
また、香典をいただいた場合、本来であれば「香典返し」を用意するのが一般的なマナーとされています。
ただし、香典返しにかかる費用は葬祭扶助の支給対象外となっており、たとえ多くの香典を受け取って返礼品の費用がかさんだとしても、その分は自己負担となります。
香典返しの準備が難しい場合や費用面で不安がある場合は、あらかじめ「香典は辞退させていただきます」と伝えておくことで、負担を避けやすくなるでしょう。
まとめ
葬儀費用は高額になるため、生活保護を受給しているご遺族にとっては大きな負担となります。
ただし、生活保護受給者の葬儀に関しては、経済的な負担を軽減するための制度が整備されています。
葬祭扶助を中心に、健康保険組合からの給付や自治体の補助制度なども活用することで、尊厳ある最期を迎えることが可能です。
葬儀費用を捻出するためには、生活保護費の支給を申請したり、葬儀費用を分割で支払うなど、葬祭扶助による支給など様々な方法があります。
生活保護受給者の方が亡くなった場合、ご遺族の方々が安心して葬儀を行えるよう、これらの制度を適切に活用して必要な支援を受けましょう。