老後破産とは?リスクを高めるおもな原因や対策を解説!
高齢化社会が進むなか、老後の生活資金に関する不安は高まっています。本記事では、定年後の経済的な破綻である「老後破産」について、現状や原因を解説します。老後破産になりやすい人の特徴や、老後破産しないための対策も解説するので、老後資金に不安のある人は参考にしてください。
高齢化社会が進むなか、老後の生活資金に関する不安は高まっています。
長生きすることは良いことですが、一方で長生きすればするほど日々の生活費がかかります。老後破産を避けるためには、早い時期からの対策が重要です。
本記事では、定年後の経済的な破綻である「老後破産」について、現状や原因を解説します。
老後破産になりやすい人の特徴や、老後破産しないための対策も解説するので、老後資金に不安のある人は参考にしてください。
老後破産とは?
老後破産の概要
老後破産とは、老後を迎えてから経済的に困窮して破綻する状態を意味します。
医療の発達などによって、今なお日本の平均寿命は延び続けており、人生100年時代といわれるようになりました。
ある海外の研究機関が行なった調査によると、2007年に日本で生まれた子どもの半数以上は、107歳以上生きる可能性があると報告されています。
多くの人が老後のお金に不安を感じていても、対策はできていない状態です。
老後破産してしまうと、子どもに経済的に頼らざるを得なくなったり、生活保護を受けなければいけなくなったりすることも珍しくありません。
老後破産する人の割合
日本弁護士連合会の資料によると、2020年の破産手続き件数における60歳以上の割合は約26%で、2008年の約16%と比較して大幅に増加しています。
高齢化社会のなかで、高齢者の貧困が社会問題になっているのが現状です。
十分な退職金や貯蓄があっても、物価の上昇や医療費の増加など、予期せぬ支出によって老後資金が不足し、破産に至るケースは少なくありません。
高齢者の経済的な困窮は決して珍しいことではなく、誰にでも起こりうる可能性があります。
参照:2020年破産事件及び個人再生事件記録調査(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会)
老後破産のリスクを高めるおもな原因
老後破産のリスクを高めるおもな原因は以下のとおりです。
収入が減っているのに生活レベルを落とせない
収入が減っているのに生活レベルを落とせないと、老後破産のリスクが高まります。
多くの人の場合、収入は40代から50代にかけてピークを迎えます。
定年退職を機に年金収入へと移行するため、以降収入が大幅に減少することが多く、現役時代よりもお金を使わない生活を想定しなければなりません。
定年後の収入減に対応できず現役時代の消費習慣を続けていると、やがて貯蓄は底をつきます。年金だけでは生活が困難になり、最悪の場合、経済的な破綻を招くかもしれません。
定年後も住宅ローンの支払いや教育資金が必要になる
晩婚化の影響で、定年後も住宅ローンの支払いや、子どもの教育資金が必要なケースが増えています。
私立大学の場合は国公立大学より授業料が高く、また子どもが一人暮らしをする場合は毎月の仕送りも必要です。
また、子どもが引きこもりやワーキングプアなどで働かない場合には、自身の生活費だけでなく、子どもの生活費も負担しなければなりません。
老後に安定した生活を送るためには、子どもの自立を促すことも大事です。
医療費や介護費用が増加する
60歳を超えると予期せず病気になる可能性が高まり、医療費(治療費、入院費)が増える可能性もあります。
高齢者は、現役世代に比べて医療費の自己負担割合は低いですが、高額な医療費が必要な大病にかかってしまった場合、公的な医療保険だけでは対応しきれない場合もあります。
さらに、自身だけでなく、パートナーや親の介護が必要になる場合も考えられます。介護施設や老人ホームに入居するためには、一般的にまとまった資金が必要です。
退職金を使った資産運用に失敗してしまう
退職金を使った資産運用に失敗してしまうと、老後破産のリスクが大きくなります。
例えば、金融機関から勧められた商品に退職金をつぎこんだ結果、期待していた収益を得られず、むしろ投資額を下回る損失になるケースです。
さらに、損失を取り返すためにハイリスクな商品に手を出し、さらに損失が増える悪循環に陥る場合も。気が付いたら退職金がなくなっていたという事態にならないように、資産運用はリスクを許容できる範囲内で行ないましょう。
なお、退職金の使い方で不明な点は、ファイナンシャルプランナーに相談してみるのもおすすめです。
お金の専門家にアドバイスをもらうと、より良い使い方ができるかもしれません。
老後破産のリスクが高い人の特徴
老後破産のリスクが高い人の特徴は、次のようなものです。
・ 老後の収入と支出のシミュレーションができていない
・ 退職金がなく、貯金や年金も少ない
・ 固定費が高い
老後の収入と支出のシミュレーションができていない
老後資金がいくら必要なのか把握できているでしょうか。
まず、現在の自分の収入と支出、貯蓄額などの保有財産を確認しましょう。
将来もらえる年金額や退職金をもとに、老後に入るお金(年金)と出るお金(生活費)を明確にすれば、不足するお金が見えてきます。不足額がわかれば、具体的な対策が立てやすくなるでしょう。
総務省の「家計調査報告書(家計収支編) 2022年(令和4年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の消費支出は、23万6,696円です。
可処分所得が21万4,426円なので、2万2,270円の赤字となります。
この結果は、貯金を少しずつ取り崩しながら生活している状態を示唆しています。
老後の生活では毎月数万円の収入が不足すると想定し、必要な資金を算出してみましょう。
参照:家計調査報告書(家計収支編) 2022年(令和4年)平均結果の概要(総務省)
退職金がなく、貯金や年金も少ない
退職金がなく、貯金や年金も少ない人は注意が必要です。
老後資金の準備が不十分な場合、毎月の収支が赤字になったり予想外の支出が発生したりすると、生活が苦しくなり、老後破産のリスクが高まります。
自営業で国民年金だけの場合、1ヵ月の年金額はわずか6万8,000円(昭和31年4月2日以後生まれの場合)で、年金だけではとても生活できません。
付加年金や国民年金基金を利用して少しでも増額するなど、早めの対応が必要です。
参照:日本年金機構 令和6年4月分からの年金額等について
十分な退職金と年金があっても、家のリフォーム費用や医療費などの不測の大きな出費で老後破産する人が多い点にも注意しましょう。
固定費が高い
住居費や車両費、保険料、住宅ローン、携帯料金などの固定費が高い人は注意が必要です。固定費を減らすために、まずは生命保険や携帯料金、動画配信などのサブスクリプションのプランを見直してみましょう。
特に、自動引き落としになっているサービスは、一度内容を確認するのも大切です。使っていないのに払い続けているサービスがないか確認しましょう。
住宅ローンはできる限り定年前に完済すると、その後の生活に余裕が生まれるでしょう。ただし、建ててから20~30年経過している場合は、リフォームで大幅な出費が必要になることも考えられます。
老後破産しないための対策
老後破産を防ぎ、安心して暮らすためには、早めの準備と計画が重要です。老後破産のリスクから身を守るための具体的な対策を、わかりやすく解説します。
老後のための資金を貯める
総務省の「家計調査年報(貯蓄・負債編)2022年(令和4年)」によると、世帯主が65歳以上の2人以上の世帯の貯蓄額は、2,500万円以上が全体の34.2%を占めています。
一方で、貯蓄保有世帯の中央値は1,677万円であり、300万円未満の世帯が全体の14.4%を占めるなど、貯蓄額に大きなばらつきが見られます。
引用:総務省 家計調査年報(貯蓄・負債編)2022年(令和4年)貯蓄・負債の概要
少しずつでも貯金をすることが大事ですが、普段使いの口座に貯めても生活費と貯蓄額の区別がつかなくなりがちです。
そこでおすすめの貯蓄方法の一つが定期預金です。定期預金なら、預入期間に達するまではお金を引き落とせないうえに生活費と貯金が分かれるため、貯金が苦手な人にも向いています。
また、貯金は分散しておくことも重要です。例えば個人向け国債は、国が発行する個人向けの債券で、利率は低めですが、元本が保証されているため、確実にコツコツと資産を増やせます。
初心者向けの投資では、運用益の税制優遇が受けられるNISAがおすすめです。
NISAのつみたて投資枠のように、少額から始められる長期的な投資なら、リスクを抑えながら資産形成ができます。
健康維持に努める
老後破産の対処法として、健康維持に努めましょう。
十分に貯金があっても、病気をしたら医療費や入院費で大きな出費になるかもしれません。認知症や寝たきりになって老後破産した例もあります。
健康は、老後を安心して暮らすための財産です。ウォーキングなどの運動習慣を身に付け、健康な体づくりをしていきましょう。定期健診で、健康状態をチェックすることも重要です。
健康を維持するのは、長く働き続けるためにも大事です。国民年金は40年間加入すれば満額支払われますが、厚生年金には満額という考え方はありません。
厚生年金の支給額は加入期間と年収に応じて決まります。60歳以降も継続的に働き続ければその分納める金額も増え、結果的に受け取る年金額も増えることになります。
なお、厚生年金の被保険者期間は原則70歳までです。
参照:日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
参照:日本年金機構 働きながら年金を受給する方へ
繰下げ受給を利用する
公的年金は原則65歳から受け取れますが、受け取る時期を遅らせる「繰下げ受給」を利用すると、受給額は増額されます。(老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに利用可能)
繰下げ受給とは、65歳以降の66歳から75歳で年金の受け取りを開始することです。繰下げ受給を利用した場合、受給額は1ヵ月当たり0.7%増額され、上限である75歳まで繰下げると、65歳から受給する場合に比べて最大84%増額されます。
一方で、繰下げ受給とは逆で65歳より前から年金を受け取れる繰上げ受給はおすすめできません。受給額が減額され、その減額率は生涯変わらないためです。
なお、「ねんきんネット」を利用すれば、将来の年金額の試算が可能です。
参照:日本年金機構 年金の繰下げ受給
リバースモーゲージや リースバックを利用する
持ち家がある場合は、住み慣れた自宅にそのまま住みながらまとまった資金を調達できる「リバースモーゲージ」や「リースバック」を利用できます。
リバースモーゲージは、自宅に住み続けながら、自宅を担保にお金を借り入れる方法です。死亡後、または契約期間終了後に自宅を売却して、一括返済します。
毎月の返済額が利息のみと少ないため、無理なく老後資金の準備を進めたい人におすすめです。
リースバックは、自宅を売却して現金化したあとも、家賃を支払うことで住み続けられる方法です。住宅の売却と賃貸契約を同時に行なうことで、資金調達と住み続けることを両立できます。
リバースモーゲージやリースバック以外にも、売却せずに住み続ける方法や、別の住まいに引っ越すなど、さまざまな選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを比較検討しましょう。
まとめ
老後破産は、年金だけでは生活が難しくなり、貯蓄を取り崩しても足りない状況に陥ることです。
おもな原因として、医療費の増加や介護費用、収入が下がっても生活レベルが落とせないことなどが挙げられます。 老後破産を防ぐためには、早めの対策が大切です。
貯蓄や健康管理、資産運用、年金の繰下げ受給の利用などの対策を検討してみましょう。老後破産は、誰にでも起こりうるリスクです。
しかし、今からしっかりと準備することで、安心して老後を過ごせます。
金子 賢司(かねこ けんじ)
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード市場)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。
以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はジャザサイズ。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。
<保有資格>CFP