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お金のこと

2025.03.28

年金から引かれるものは何?計算方法と世帯別シミュレーション

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本記事では、年金から引かれるものの種類や計算方法を分かりやすく解説し、手取り額のシミュレーションもご紹介します。

年金を受給すると、税金や保険料が引かれたあとの手取り額が振り込まれます。しかし、何がどれくらい引かれるのか分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。

年金から引かれるものは何がある?必ず引かれる?

年金手帳を眺めるシニア男性
年金は、原則として65歳から(繰上げ受給の場合は60歳から)、偶数月(年6回)に支払われます。

具体的な受給額は、一定の税金や保険料が天引きされたあとの額です。年金から天引きされることを、特別徴収といいます。特別徴収されるものは、おもに次の5つです。
・所得税
・住民税(令和6年度から森林環境税も含む)
・介護保険料
・国民健康保険料
・後期高齢者医療保険料
ただし、各税金、保険料の天引きには条件があり、必ずしも全員がすべて天引きされるわけではありません。

次の章から、それぞれの引き落としになる条件や計算方法を解説します。

年金から引かれるもの1・所得税

年金は雑所得として扱われるため、一定の金額を超えると所得税がかかります。

年金から所得税が引かれる条件

所得税が引かれるかどうかは、年間の年金受給額によって決まります。所得税がかかる年金受給額は次のとおりです。

65歳未満:年金受給額が108万円を超える場合
65歳以上:年金受給額が158万円を超える場合

一方で、これに該当しない場合には所得税は課されません。公的年金等控除と基礎控除を年金受給額から引くと、課税所得が0円となるためです。

なお、そのほかの控除の有無でこの金額を超えても所得税がかからない場合もあります。

年金から引かれる所得税の計算方法

所得税額は、年金受給額から公的年金等控除額などの各種控除額、基礎控除額を引いたもの(課税所得)に税率をかけた金額です。以下は、年金以外の所得が1,000万円以下、または所得が年金のみの場合の例です。

1.年金受給額から公的年金等控除を算出する
・65歳未満:年金受給額に応じて60万円~195.5万円の控除
・65歳以上:年金受給額に応じて110万円~195.5万円の控除

2.課税所得を計算する
合計所得が2,400万円以下の場合、課税所得を求める際に適用される基礎控除額は48万円です。
・課税所得=年金受給額―各種控除-基礎控除額(48万円)

3.所得税額を算出する
課税所得に、5.105%の税率をかけた金額が所得税額です。例えば、課税金額が10万円の場合、所得税は約5,105円となります。

年金から引かれるもの2・住民税(森林環境税を含む)

住民税は、市町村民税と道府県民税で構成されています。

年金から住民税が引かれる条件

年金から住民税が天引きされる対象者は、4月1日時点で65歳以上であり、年金受給額が年間18万円以上ある人です。所得税とは異なり、前年の所得をもとに計算されます。

なお、以下の場合は後述する均等割、所得割ともに非課税となり、住民税は課されません。(東京都23区内の場合)
・単身で前年の合計所得金額が45万円以下の場合
・同一生計の配偶者、扶養親族がいて、前年の合計所得金額が「35万円×(本人および扶養親族
・同一生計配偶者の合計人数)+31万円」以下の場合
また、生活保護受給者や、障害者・未成年・寡婦(夫)もしくはひとり親で前年の合計所得が135万円以下の場合も非課税となります。

軽減措置などは自治体によって異なるため注意が必要です。

年金から引かれる住民税の計算方法

住民税は、所得割と均等割の2方式があります。

所得割の計算式は次のとおりです。
・(年金受給額-各種控除)×税率

基礎控除の額は住民税の場合43万円で、所得税とは異なりますので注意が必要です。

また、税率は基本的に10%(市町村民税6%、都道府県民税4%)となっていますが、内訳は自治体によって若干異なることがあります。

一方、均等割は収入に関係なく定額で課税されるもので、5,000円程度です。均等割の金額や内訳も、自治体によって異なります。また、このなかに新設された森林環境税も含まれています。

年金から引かれるもの3・介護保険料

介護保険料は、介護保険法に基づいて徴収される2000年に創設された保険料です。

40歳以上のすべての人に加入義務があり、65歳以上になると年金から天引きされる仕組みになっています。

年金から介護保険料が引かれる条件

65歳以上の介護保険料は、原則として年金から特別徴収する形で納付されます。年金から引かれる条件は次の2つです。
・65歳以上
・年間の年金受給額が18万円以上
特別徴収に該当しない場合は、納付書や口座振替などの普通徴収で支払う必要があります。

年金から引かれる介護保険料の計算方法

介護保険料は、市区町村ごとに基準が定められているため、住んでいる地域によって金額が異なります。また、世帯の構成や収入状況によっても負担額が変わります。

例えば、東京都世田谷区の65歳以上の介護保険料額(令和6年度~令和8年度)は次のとおりです。
世田谷区の介護保険料額
出典:世田谷区「世田谷区の介護保険料額」
※上記「世田谷区「世田谷区の介護保険料額」ページに大きく見やすい表がありますので、そちらでもご確認ください。

厚生労働省の資料によると、令和6年度~令和8年度における65歳以上の介護保険料の全国平均額は、月額6,225円でした。

参考:厚生労働省「第9期計画期間における 介護保険の第1号保険料について」

年金から引かれるもの4・国民健康保険料

国民健康保険料は、おもに自営業者や退職後に企業の健康保険を脱退した人などが加入する健康保険制度の保険料です。

年金から国民健康保険料が引かれる条件

国民健康保険料が年金から差し引かれるのは、以下にすべてが当てはまる世帯主となる人です。
・国民健康保険に世帯主が加入している
・世帯の国民健康保険の加入者全員が65歳以上75歳未満
・世帯主が年間18万円以上の年金を受け取り、国民健康保険料と介護保険料を合わせて年金額の2分の1を超えない
この場合、世帯の合計保険料が世帯主から特別徴収されます。個人の支払いに分けることはできません。

なお、国民健康保険組合(同種の事業者や業務従事者で組織する健康保険組合)に加入している人は、この天引きの対象外です。

年金から引かれる国民健康保険料の計算方法

国民健康保険料は基本的に以下の3つの方式で算出され、自治体ごとに保険料率が異なります。
・所得割:前年の所得に応じて決まる部分
・均等割:加入者の人数によって決まる部分
・平等割:すべての世帯に一律で課される部分
所得が高いと所得割の部分が増え、世帯の人数が多いと均等割の負担が大きくなる仕組みです。さらに、一部の自治体では資産割といって、不動産などの資産を持っている人に追加で課税することもあります。

国民健康保険料は、医療分、支援分、介護分の3つに分かれており、納められた保険料はそれぞれの用途の財源に充てられます。

例えば、世田谷区の場合の国民健康保険料の計算方法(令和6年度)は次のとおりです。
国民健康保険料の計算方法

年金から引かれるもの5・後期高齢者医療保険料

75歳以上になると、健康保険制度が後期高齢者医療制度に移行します。

年金から後期高齢者医療保険料が引かれる条件

年金から後期高齢者医療保険料が引かれるのは、75歳以上、または65歳以上75歳未満で一定の障害認定を受けて後期高齢者医療制度に加入している年金受給者が対象です。また、特別徴収となる年間受給額の条件は18万円以上です。

ただし、年金受給額の2分の1を介護保険料と後期高齢者医療保険料を合わせた金額が超える場合は、介護保険料と同様に、天引きされません。

この制度は、各都道府県の後期高齢者医療広域連合によって運営されているため、住んでいる地域によって保険料が異なります。

年金から引かれる後期高齢者医療保険料の計算方法

後期高齢者医療保険料は、個人単位で計算されます。

世帯ごとに計算される国民健康保険料とは異なり、一人ひとりに課されるのが特徴です。計算方法や料率は都道府県ごとに条例によって定められています。

保険料は、均等割と所得割の2つで構成されています。
・均等割:所得に関係なく、すべての加入者が一定額を負担する部分
・所得割:前年の所得に応じて計算される部分
厚生労働省によると、令和7年度の被保険者1人当たりの保険料額見込みは、全国平均で月額7,192円です。

参考:厚生労働省「令和6年度からの後期高齢者医療の保険料について」

実際の年金平均額や税金納付額をチェック

通帳を確認するシニア夫婦
ここまでご説明したとおり、「年金」といっても、実際には受給額からさまざまな税金や保険料が引かれた金額を受け取ります。

では、年金受給者は実際に、年金受給額からどのくらいの税金、保険料を支払っているのでしょうか。
厚生労働省および総務省の調査結果をもとにご紹介します。

年金受給額の平均は約15万円

厚生労働省の「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和5年度末時点での年金の平均受給額は次のとおりです。
・厚生年金(第1号被保険者)の受給者の平均月額は147,360円(老齢基礎年金を含む)
・国民年金(老齢基礎年金) の受給者の平均月額は57,700円
厚生年金を受給している人は、月に15万円ほどの年金収入があるのが平均的です。一方、国民年金のみの人は、月6万円弱と大きな差があります。

年金から引かれている税金・保険料の平均は夫婦二人で約3万円

では、年金受給額から引かれている税金や保険料は実際いくらなのでしょうか。

総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)」(2023年)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の消費支出は250,959円となっています。

そのうち、税金や社会保険料などの非消費支出は31,538円となっており、これが年金から天引きされる税金や保険料の実態に近いといえます。

また、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の場合、消費支出が145,430円で、非消費支出は12,243円でした。

年金から諸々引かれたあとの手取り額は?世帯別シミュレーション

提案を聞くシニア夫婦
では、実際に年金から税金や保険料が引かれたあとの手元に残る額がどのようになるか、単身世帯と夫婦二人世帯の場合でシミュレーションしてみましょう。

条件は、東京都世田谷区在住の70歳で、収入は公的年金(厚生年金)のみ、受給額は平均値から月15万(年180万円)とします。また、計算には社会保険料控除も反映させることとします。

社会保険料控除とは、介護保険料や国民健康保険料など、支払った社会保険料を所得から差し引くことです。

下記例においては、後述する介護保険料と国民健康保険料の年額を合算した数字で計算することとします。

単身世帯の場合

①所得税

・年金180万円−公的年金等控除110万円−基礎控除48万円−社会保険料控除183,287円(内訳:介護保険料:86,664円、国民健康保険料:96,623円の合算)=36,000円(1,000円未満切り捨て)

・所得税=36,000円×5.105%=1,837円(1円未満切り捨て)
年間で1,837円、一月当たり約153円になります。
②住民税

・年金180万円−公的年金等控除110万円−基礎控除43万円−社会保険料控除183,287円=86,000円(1,000円未満切り捨て)

・課税所得86,000円×10%+均等割5,000円=13,600円
年間で13,600円、一月当たり約1,133円になります。
③介護保険料

条件である年間収入180万円は、先述した世田谷区の「世田谷区の介護保険料額」に当てはめると、「第6段階:本人が住民税課税で、合計所得金額が120万円未満の方」に該当します。
年間で86,664円、一月当たり7,222円です。
④国民健康保険料

こちらも、先述した世田谷区の「令和6年度世帯の国民健康保険料の計算方法(世帯合算)」をもとに算出します。


<均等割>
・医療分均等割額49,100円+支援分均等割額16,500円=65,600円

<所得割>
・所得割の割賦基準額=年金180万円−公的年金控除110万円−基礎控除43万円=27万円
・所得割=(医療分:27万円×8.69%=23,463円)+(支援金分:27万円×2.8%=7,560円)=31,023円

均等割と所得割を合わせて年間で96,623円、一月当たり約8,052円になります。
①~④を合算すると、一月当たりに引かれる金額は約16,560円です。

夫婦二人世帯の場合

続いて、夫婦二人世帯の場合のシミュレーションです。妻の年金受給額は月10万円と仮定します。

夫の分で特に変わるのは、国民健康保険料です。世帯主である夫が、妻と自身の2人分を納めることになります。
<均等割>
医療分均等割額2人×49,100円+支援分均等割額2人×16,500円=131,200円

<夫分の所得割>
・所得割の割賦基準額=年金180万円−公的年金等控除110万円−基礎控除43万円=27万円
・所得割=(医療分:27万円×8.69%=23,463円)+(支援金分:27万円×2.8%=7,560円)=31,023円

<妻分の所得割>
・所得割の割賦基準額=年金120万円−公的年金等控除110万円−基礎控除43万円=0円


夫と妻の国民健康保険料合計は、年間で162,223円、一月当たり約13,518円となります。

なお、妻の所得税、住民税は、年金受給額から公的年金控除と基礎控除を引いた金額が0円となるため、非課税です。

介護保険料は、先述した世田谷区の「世田谷区の介護保険料額」に当てはめると、第4段階に該当します。
年間で64,056円、一月当たり5,338円です。

以上の内容から、妻分の特別徴収額は一月当たり5,338円です。

夫(前項で求めた所得税・住民税・介護保険料、本項で求めた2人分の国民健康保険料)と妻の特別徴収額の合計は、21,898円となりました。
日本年金機構の発表では、夫婦二人分の老齢基礎年金を含む標準的な厚生年金の受給額は、令和6年度で230,483円とされています。

ここから夫と妻の特別徴収額を引くと、手取り額の試算は208,585円となりました。

さらに、配偶者の所得が48万円以下の場合、夫の所得税の計算時に配偶者控除が適用されるため、さらに負担軽減が期待できます。

押さえておきたい年金天引きのアレコレ

年金の天引きについて、年金受給者が事前に知っておきたい3つのポイントについて解説します。

年金受取直後など天引きにならない期間がある

年金を受け取り始めた最初の数ヵ月は、住民税や介護保険料などの天引きが始まらず、普通徴収で支払う必要があります。これは、特別徴収の手続きに時間がかかるためです。

また、その年の1月2日以降に他の市町村へ転出した場合も、天引きが行なわれないケースがあります。

引越し予定がある方はその届出と併せて年金の支払いについて自治体に確認することをおすすめします。

年金から税金等の天引きがストップする場合もある

年度途中で税額が変わると、年金からの天引きが中止されることがあります。また、年金受給額が減少し、天引きの基準を満たさなくなった場合も同様です。

これまで解説したとおり、所得税や住民税は非課税基準を下回った場合に、介護保険料や国民健康保険料、後期高齢者医療保険料は、年金受給額が年間18万円未満になった場合に天引きの対象ではなくなります。

この場合、多くは普通徴収での支払いに切り替わります。

年金収入は金額によって確定申告が必要になる

年金受給者も原則として確定申告の対象です。

しかし、確定申告不要制度により、公的年金等の収入が400万円以下で、公的年金のすべてが源泉徴収の対象となり、かつ公的年金以外の所得が20万円以下の場合は申告不要とされています。

給与や株式の配当などがある場合は合算して20万円を超えているかどうかを判断する必要があるため注意が必要です。

また、医療費控除やふるさと納税による寄付金控除を適用する場合は税金の還付を受けられることがあります。

まとめ

年金からは、所得税や住民税、介護保険料、国民健康保険料などが特別徴収によって天引きされますが、その金額は所得や世帯状況によって異なります。

また、住民税の非課税基準や特別徴収の条件を満たさない場合は、普通徴収で支払うことになります。

実際の手取り額を知ることで、老後の生活設計をより具体的に考えることができるでしょう。

本記事で解説した計算方法やシミュレーションを参考に、ご自身の年金収入と手取り額をしっかり確認しておきましょう。

■監修者
齋藤 彩(さいとう あや)

独立系FPとして資産運用や保険提案、ローン、住宅購入などの個人向け相談業務を中心に、中小企業への企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の導入支援も行なう。また、お金の知識をわかりやすく伝えるため、金融メディアへの執筆・監修活動もしている。

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