「独身者の老後資金はいくら必要?」「今の貯蓄額で老後も生活していけるのか不安」と感じる方も多いのではないでしょうか。
現在は「人生100年時代」と呼ばれるほど平均寿命が伸びています。
夫婦世帯であれば経済的にも助け合えますが、独身者の場合はすべての資金を自分で賄わなければならないため、早期から老後資金を準備しておく必要があるでしょう。
65歳以上のおひとりさまは増加傾向にある
「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によると、65歳以上の一人暮らしの方は男女ともに増加傾向にあります。
さらに、5年に1回行なわれている国勢調査のうち直近2つの結果を比較すると、65歳以上の未婚率もわずかに上がっているのがわかりました。
参照:平成27年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要|総務省統計局
参照:令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要|総務省統計局
65歳以上の未婚者は今後も増加すると考えられており、2050年には一人暮らし世帯の半数近くを65歳以上の高齢者が占めるといわれています。
老後も安心して暮らすには、早いうちから資金を準備する必要があるでしょう。
独身者に必要な老後資金
一時期話題になった「老後2,000万円問題」は、夫婦世帯を対象としたデータに関するものです。それでは、独身者の場合はどれほどの老後資金が必要になるのでしょうか。
700~1,100万円が最低ラインと考えられる
引用:家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要|総務省統計局
「家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は11万4,663円、消費支出は14万5,430円で、毎月3万767円の赤字が出る計算になります。
可処分所得は収入から社会保険料や税金を引いた手取り収入で、消費支出はいわゆる生活費のことです。
老後生活を20年と仮定した場合は738万4,080円、30年と仮定した場合は1,107万6,120円の資金を補填しなければならないと考えられます。
女性は男性よりも多くの老後資金が必要になる
「令和4年簡易生命表の概況」によると、男性の平均寿命は81.05年、女性の平均寿命は87.09年と6年ほどの差が生まれています。
出生者10万人に対する65歳の割合も、男性が89.6%、女性が94.4%であることから、女性のほうが長生きする可能性が高いでしょう。
一方で「2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果 結果の概要」では、女性の可処分所得が男性よりも1万円程度低く、女性のみ不足分も出ています。
女性は男性よりも年収が低く、受給できる年金も少ない傾向にあるため、より多くの老後資金を用意しておかなければなりません。
参照:令和4年簡易生命表の概況
参照:2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果 結果の概要
老後に必要な独身者の生活費の内訳
「家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要」のデータをもとに、老後の独身者の生活費平均額をまとめたものが下記です。
項目
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1ヵ月当たりの平均額
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食料
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4万139円
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住居
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1万2,507円
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光熱・水道
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1万4,398円
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家具・家事用品
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5,963円
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被服および履物
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3,199円
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保健医療
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7,999円
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交通・通信
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1万5,125円
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教育
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0円
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教養娯楽
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1万5,270円
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その他の消費支出(交際費含む)
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3万831円 |
独身者の平均貯蓄額
金融広報中央委員会が公表しているデータをもとに、単身世帯20~70代までの平均貯蓄額とその中央値をまとめたものが下記です。
年代
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平均貯蓄額
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中央値
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20代
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121万円
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9万円
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30代
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594万円
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100万円
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40代
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559万円
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47万円
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50代
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1,391万円
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80万円
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60代
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1,468万円
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210万円
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70代
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1,529万円
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500万円
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公的年金の平均受給金額
なかには「ほかの方は毎月どれくらいの年金を受給しているのだろう」と疑問に思う方もいるでしょう。ここでは、厚生年金と国民年金の平均受給金額をまとめました。
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厚生年金
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国民年金
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令和元年度
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14万6,162円
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5万6,049円
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令和2年度
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14万6,145円
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5万6,358円
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令和3年度
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14万5,665円
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5万6,479円
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令和4年度
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14万4,982円
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5万6,428円
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令和5年度
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14万7,360円
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5万7,700円
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出典:令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省年金局
国民年金の受給額は、厚生年金よりも大幅に少ないため、自営業・フリーランスの方は、少しでも早めの準備が望まれます。
また、年金受給金額は給与や加入年数などによっても変わるため、上記の数値も一つの目安程度にとらえておいてください。
生活費以外に必要になる費用
老後は、食費や光熱費といった生活費以外に以下のような費用もかかります。
介護費
年齢を重ねていくと体が衰え、生活のサポートをお願いできる方も限られるため、介護が必要になる可能性が高いでしょう。
自治体から要介護・要支援認定を受けた場合、公的介護保険によって所定の介護サービスを1~3割負担で利用できますが、要介護ごとに限度額が決められています。
老人ホームや介護施設に入所した場合は、毎月10~35万円ほど支払わなければならないでしょう。
また以下のデータから、500万円程度の介護費を準備しておくのが望ましいといえます。
・毎月の介護費用:平均9万円
・一時的な介護費用の合計額:平均47万円(前回は平均74万円)
・介護期間:平均4年1ヵ月
出典:2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査<速報版>|公益財団法人 生命保険文化センター
治療費・入院費
けがをしたり病気を患ったりした場合は、治療費・入院費が必要です。
「老後に必要な独身者の生活費の内訳」で紹介したデータには毎月約8,000円の医療費が含まれていましたが、状況によってはその金額以上の費用がかかるかもしれません。
医療費の自己負担額は、70~74歳で原則2割、75歳以上で原則1割(いずれも現役並みの所得がある場合は3割)になります。
葬儀費用
兄弟や親族に迷惑をかけないためにも、自分が亡くなったときの葬儀費用やお墓に関する費用も用意しておきたいところです。
葬儀費用は、その内容や地域によって大きく変わるものの、およそ100~200万円とされています。
お墓に関する費用は、新たにお墓を購入するか、共同墓に入るか、先祖代々のお墓に入るかによって変わるため一概にはいえません。
住居費
持ち家なしの場合は、毎月家賃がかかります。
持ち家ありの場合は、老朽化にともなうメンテナンス費用が必要です。老後も長く住み続けるなら、バリアフリー化のためのリフォーム費用も用意しておくと安心でしょう。
住宅ローンの返済が続くと家計に大きな負担がかかるため、繰り上げ返済などでなるべく早く完済するのが理想的です。
持ち家あり・なし(賃貸)でも必要な老後資金は変わる
冒頭では、最低でも700~1,100万円の老後資金を貯める必要があるとお伝えしました。
しかし、「家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要」のデータに記載されている住居費は1万2,507円と低いことから、住宅ローンを完済している持ち家、もしくは親から引き継いだ実家に住んでいるケースを想定していると考えられます。
そのため賃貸住宅に住んでいる場合は、さらに多くの老後資金を貯めなければなりません。
「住宅・土地統計調査 / 令和5年住宅・土地統計調査 / 住宅及び世帯に関する基本集計 全国・都道府県・市区町村」のデータによると、65歳以上の単身世帯の家賃は1ヵ月当たり4万4,183円です。
この金額を上記データの住居費に置き換えた場合、約1,500~2,300万円の老後資金が必要になります。
参照:家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要
参照:住宅・土地統計調査 / 令和5年住宅・土地統計調査 / 住宅及び世帯に関する基本集計 全国・都道府県・市区町村
条件別!独身者の老後資金シミュレーション
それでは、これまでに紹介した数値を用いて、独身者に必要な老後資金をシミュレーションしてみます。ご自身で計算する際の参考にしてください。
なお、以下の数値は固定とします。
・介護費用600万円
・葬儀費用150万円
・リフォーム費用280万円(持ち家ありの場合)
持ち家ありの場合
・1ヵ月当たりの可処分所得(おもに公的年金):11万4,663円
・1ヵ月当たりの生活費:14万5,430円
・不足分:3万767円
【男性の場合】
3万767円×12ヵ月×16年=590万7,264円
590万7,264円+600万円+150万円+280万円=1,620万7,264円
【女性の場合】
3万767円×12ヵ月×22年=812万2,488円
812万2,488円+600万円+150万円+280万円=1,842万2,488円
持ち家なしの場合
・1ヵ月当たりの可処分所得(おもに公的年金):11万4,663円
・1ヵ月当たりの生活費(住居費を除く):13万2,923円
・1ヵ月当たりの家賃:4万4,183円
・不足分:6万2,443円
【男性の場合】
6万2,443円×12ヵ月×16年=1,198万9,056円
1,198万9,056円+600万円+150万円+280万円=2,228万9,056円
【女性の場合】
6万2,443円×12ヵ月×22年=1,648万4,952円
1,648万4,952円+600万円+150万円+280万円=2,678万4,952円
会社員の場合
・1ヵ月当たりに受給する厚生年金:14万7,360円
・1ヵ月当たりの生活費:14万5,430円
・不足分:なし(1ヵ月につき1,930円+)
【男性の場合】
1,930円×12ヵ月×16年=37万560円
(600万円+150万円+280万円)-37万560円=992万9,440円
【女性の場合】
1,930円×12ヵ月×22年=50万9,520円
(600万円+150万円+280万円)-50万9,520円=979万480円
自営業の場合
・1ヵ月当たりに受給する国民年金:5万7,700円
・1ヵ月当たりの生活費:14万5,430円
・不足分:8万7,730円
【男性の場合】
8万7,730円×12ヵ月×16年=1,684万4,160円
1,684万4,160円+600万円+150万円+280万円=2,714万4,160円
【女性の場合】
8万7,730円×12ヵ月×22年=2,316万720円
2,316万720円+600万円+150万円+280万円=3,346万720円
貯めるべき老後資金を把握するには
これまで独身者に必要な老後資金について説明してきましたが、具体的な金額は生活状況や現在の収入などによって大きく変わります。
これから貯めるべき老後資金を把握したいなら、以下の流れに沿って計算してみましょう。
1.現在の生活費を把握する
2.老後に増える(減る)と予想される支出を考える
3.自分が受け取れる年金額や退職金を確認する
4.平均寿命まで生きる場合に必要な老後資金を計算する
「老後資金は5,000万円必要」という説も?その理由とは
「老後資金は5,000万円必要」という話を聞いたことのある方もいるかもしれません。そのような話題があがっている理由は、65歳以上の単身無職世帯の消費支出が14万5,430円とされているためです。
参照:家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要|総務省統計局
14万5,430円×12ヵ月×30年=約5,240万円
そのほか、「年金受給金額が減少しつつある」「平均寿命が長くなっている」「物価上昇リスクがある」などの点も関係しているといわれています。
実際に独身者が老後資金として5,000万円貯めていた場合は、かなりゆとりのある生活を送れるでしょう。
独身者が老後資金を準備する方法
目標額に到達できる可能性を高めるためにも、最後に独身者が老後資金を準備する方法を5つ紹介します。
毎月の固定費を見直す
老後資金を貯めるなら、不要な出費を削減することが大切です。なかでも毎月かかる固定費は、一度見直せば継続して無駄を減らせるため、優先的にチェックしておきましょう。
見直せるものとしては、スマートフォンの契約プランや有料サブスクリプションサービス、民間保険などが挙げられます。
コツコツ貯蓄する
コツコツ貯蓄するのも有効です。
おすすめなのは、給与をもらったら先に毎月の貯蓄額を口座に入れ、残りのお金で生活する方法です。そうすることで、確実にお金を貯められます。
勤務先で財形年金貯蓄を実施している場合は、利用してみるのもよいでしょう。
財形年金貯蓄とは、給与からの天引きによって老後資金を準備できる制度で、積み立てたお金は60歳以降に年金方式で受け取れます。
自営業・フリーランスの方は、国民年金基金への加入を検討してみてください。国民年金に上乗せできるため、会社員との年金の差を埋められます。
個人年金保険などに加入する
個人年金保険や終身保険のような保険へ加入して、老後に備えるのも一つの方法です。
個人年金保険は公的年金を補完する目的で加入できる私的年金です。契約時に定めた一定期間または一生涯にわたって年金を受け取れます。
終身保険は生命保険の一種で、一生涯にわたって保障が続く保険です。亡くなったあとの葬儀費用や遺族の生活費にも備えられます。
どちらも早期で解約すると元本割れを起こす可能性があるため、注意が必要です。
できる限り働く
体力のある方は、定年後もできる限り長く働いて給与を得るとよいでしょう。定期的な収入が確保できるため、年金の繰下げ受給も視野に入れられます。
繰下げ受給では1ヵ月につき年金額が0.7%増額され、最大限度である75歳まで繰り下げると84%も増額されます。
※ただし、昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなりますので、増額率は最大で42%となります。
引用:年金の繰下げ受給|日本年金機構
増額した年金額は一生涯変わらないため、老後資金に不安の残る方は検討してみてください。
iDeCoやNISAを始める
老後資金を準備したいなら、iDeCoやNISAもおすすめです。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で設定した掛金を積み立てて自分で運用する私的年金制度です。掛金は全額所得控除、運用中に得られた利益には税金がかかりません。
NISA(少額投資非課税制度)は、投資で獲得した利益が非課税になる国の税制優遇制度です。
通常、投資信託や株式などで得られた利益には税金が20.315%かかりますが、NISAで得た利益に関しては税金がかからず、丸ごと受け取れます。
2024年1月からは新制度となり、運用の自由度が高くなりました。
まとめ
独身者に必要な老後資金は一人ひとり異なるため、一概にいくら以上必要とはいえません。
「あとどれぐらいの金額を貯めればいいのだろう」と感じる方は、現在の生活費や将来受け取れる年金・退職金などを確認し、おおよその金額を算出してみてください。
また、老後資金を貯める方法は複数あります。女性の場合は男性よりも年金受給額が低い傾向にあるため、少しでも早くから準備しておくことをおすすめします。
まずは固定費を見直したり、コツコツ貯蓄したりするところから始めてみましょう。
齋藤 彩(さいとう あや)
独立系FPとして資産運用や保険提案、ローン、住宅購入などの個人向け相談業務を中心に、中小企業への企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の導入支援も行なう。また、お金の知識をわかりやすく伝えるため、金融メディアへの執筆・監修活動もしている。
<保有資格>CFP、1級FP技能士