50代になり、老後の生活を意識し始めると、「このままの貯金額で本当に大丈夫だろうか?」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
持ち家がある安心感はあるものの、現金や金融資産が十分でないと感じる方も少なくありません。
50代の平均貯金額・平均年収
50代の平均貯金額や平均年収について、金融広報中央委員会「令和5年(2023年)家計の金融行動に関する世論調査」のデータをもとに詳しく解説します。
なお、上記のデータには「持ち家」は資産として含まれていません。
50代の貯金額
金融広報中央委員会の「令和5年 家計の金融行動に関する世論調査」によると、
・単身世帯の50代の平均貯金額は約1,391万円
・二人以上世帯の50代の平均貯金額は約1,147万円
一方で、中央値を見てみると以下のとおりです。
・ 単身世帯の中央値:50代は80万円
・二人以上世帯の中央値:50代は300万円
平均貯金額と中央値の違いから、貯金額に大きな格差があることがわかります。これは資産を多く持つ一部の世帯が平均貯金額を引き上げているからです。
そのため、平均貯金額よりも中央値を参考にするほうが現実的です。
50代以外の年代別貯金額
ほかの年代の貯金額も、以下のデータをもとに比較してみましょう。
年代
|
単身世帯
平均貯金額
|
単身世帯
中央値
|
二人以上世帯
平均貯金額
|
二人以上世帯
中央値
|
20代
|
121
|
9
|
249
|
30
|
30代
|
594
|
100
|
601
|
150
|
40代
|
559
|
47
|
889
|
220
|
50代
|
1,391
|
80
|
1,147
|
300
|
60代
|
1,468
|
210
|
2,026
|
700
|
70代
|
1,529
|
500
|
1,757
|
700
|
中央値を参考にすると、多くの世帯が貯蓄に苦労している実態が浮き彫りとなります。
また、二人以上世帯は収入の共有や支出の効率化が貯蓄の増加に寄与している一方、単身世帯は貯蓄が難しい傾向にあることがわかります。
出典:金融広報中央委員会「令和5年(2023年)家計の金融行動に関する世論調査」
50代の平均年収
国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、50代の平均年収は551.3万円です。
・50~54歳の平均年収:546.0万円
・55~59歳の平均年収:556.6万円
50代はキャリアのピークとされる年代ですが、50代後半から退職を見据えた年収の減少が始まる場合もあります。老後資金を計画するうえで、50代の年収は重要な指標となります。
出典:国税庁 令和4年分民間給与実態統計調査結果
50代の約7割が老後資金を確保できていない
2022年に金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査」によると、50代の72.8%が十分な老後資金を確保できていない状況にあることがわかりました。
対して、十分な資金を確保できているのは、わずか27.2%に過ぎません。
さらに、65.2%の人が老後資金の計画を立てていないことも明らかになっています。
貯蓄の大切さや、早めに資金計画を立てることの必要性が、あらためて感じられる結果といえます。
出典:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査2022年調査結果」
50代の方に必要な老後資金はいくら?
老後に必要な資金は、ライフスタイルや家族構成、資産状況により異なります。
ここでは、50代の方に向けて、単身者、夫婦、持ち家の有無別に必要な老後資金の目安を詳しく解説します。
50代単身者に必要な老後資金
老後に必要な資金はおもに生活費です。ほかに介護費用、葬儀費用、医療費も必要になるでしょう。
総務省統計局の「家計調査」によると、65歳以上単身世帯の老後の生活費は月平均約14.5万円とされています。
これを平均寿命(男性81.09年、女性87.14年)に照らし合わせて約20年間分として計算すると、以下のような試算になります。
生活費:14.5万円 × 12ヵ月 × 20年 = 約3,480万円
出典:総務省統計局「家計調査」
出典:厚生労働省「主な年齢の平均余命」
介護費用:74万円(一時的な費用)+ 8.3万円(月々の費用)× 61.1ヵ月(介護期間)
=約581万円
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
生活費を合計し、介護費用を追加した場合、
3,480万円 + 581万円 = 4,061万円
65歳以降は国民年金を受け取ることが可能です。
日本年金機構の「令和6年度の年金額の例」を参考に年金受給額を差し引くと、
国民年金(老齢基礎年金(満額))6.8万円 × 12ヵ月 × 20年 = 約1,632万円
4,061万円 - 1,632万円 = 2,429万円
したがって、50代単身者が安心して老後を過ごすためには、約2,429万円の資金を目安に準備することが推奨されます(厚生年金を受給した場合、この限りではありません)。
出典:日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
50代夫婦に必要な老後資金
夫婦の場合、生活費が単身者に比べて増加しますが、二人で負担を分け合うことも可能です。
総務省統計局の2023年「家計調査」によると、65歳以上夫婦世帯の老後の生活費は月平均約25万円とされています。これを平均寿命に照らし合わせて計算すると、以下のような試算になります。
生活費:25万円 × 12ヵ月 × 20年 = 約6,000万円
出典:総務省統計局「家計調査」
出典:厚生労働省「主な年齢の平均余命」
生活費の合計に、夫婦二人分の介護費用を追加した場合、
581万円(介護費用) × 2人 = 1,162万円
6,000万円 + 1,162万円 = 7,162万円
日本年金機構の「令和6年度の年金額の例」を参考に夫婦二人分の年金受給額を差し引くと、
国民年金(老齢基礎年金(満額))13.6万円 × 12ヵ月 × 20年 = 約3,264万円
7,162万円 - 3,264万円 = 3,898万円
したがって、50代夫婦が安心して老後を過ごすためには、約3,898万円の資金を目安に準備することが推奨されます(厚生年金を受給した場合、この限りではありません)。
出典:日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
持ち家がある場合の老後資金
持ち家がある場合、賃貸の場合にかかる家賃が不要になるため、必要な老後資金は軽減される可能性があります。しかし、以下の費用が発生する点には注意が必要です。
・固定資産税:年間約10万円〜15万円
・リフォーム、修繕費用:例えば屋根や外壁のリフォーム費用として平均約130~201万円
・維持費(設備交換など):エアコンや給湯器などは20年で約60万円、30年間で約60〜85万円
これらを含めて概算で20年、30年分の費用を計算すると、
15万円 × 20年 + 130万円 + 60万円 =490万円
15万円 × 30年 + 201万円 + 85万円 = 736万円
持ち家がある場合でも、20年間で約490万円、30年間で約736万円の維持費が必要となります。
50代からでも間に合う!老後資金準備の進め方
退職までの時間が限られている50代の場合、具体的な計画を立て、効率的に資金を確保することが求められます。
50代からでも間に合う老後資金準備の進め方を3つのステップに分けて解説します。
STEP1.余裕を持たせた老後の貯金額を計算する
老後(65歳以降)に必要な資金額を把握することが、老後資金の準備を始める第一歩です。
生命保険文化センターが行なった調査によると、経済的にゆとりのある老後生活費(夫婦二人)は月額で平均37.9万円とされています。これをもとに20年間の生活費を試算すると、以下のようになります。
37.9万円 × 12ヵ月 × 20年 = 約9,096万円
この金額には、生活費だけでなく、突発的な医療費やレジャー費用も含まれています。まずは、自身が目指す老後の生活水準をイメージし、それに基づいて必要な金額を算出しましょう。
STEP2.退職したあとの支出を計算する
次に、退職後にどのような支出が発生するのかをシミュレーションします。以下の項目を具体的に検討しましょう。
1.持ち家の維持費用
リフォーム費用:例えば屋根や外壁のリフォームで約201万円。
固定資産税:年間約15万円と仮定すると、20年間で約300万円。
2.家族のイベント費用
子どもの結婚や孫の誕生などのイベントで、祝い金や支援金が発生する可能性があります。例えば、孫の成長に合わせて誕生から成人まで祝った場合、一人当たり約45万円以上が必要です。
3.介護費用
介護費用:約581万円
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
これらの支出を生活費に加えることで、老後の支出総額の目安が見えてきます。
STEP3.退職したあとの収入を計算する
老後の生活費全額を貯蓄で賄う必要はありません。退職後に見込まれる収入を計算し、その分を差し引いた金額を準備すれば良いのです。
1.退職金
平均的な退職金額は、大企業で約2,000万円、中小企業で約1,000万円とされています。
2.年金
夫婦世帯の場合、厚生年金の受給額は月額約28.1万円、年間で約337.2万円が見込まれます。単身者の場合は月額約14.6万円が目安です。
計算例(夫婦世帯の場合を上方の各名目の金額より算出)
・老後20年間の総生活費(生活費約9,096万円 + 介護費用約581万円 + 持ち家がある場合の老後資金約490万円 + 家族のイベント資金2人分約90万円
└合計約1億257万円
・年金収入(337.2万円 × 20年)
└約6,744万円
・必要な資金・準備額は上の2つを差引で計算:老後20年間の総生活費約1億257万円―年金収入約6,744万円
└約3,513万円(退職金や貯蓄で補填可能)
このように、退職金や年金を含めた全体の収支をシミュレーションすることで、具体的な準備額が見えてきます。
老後資産作りに持ち家を活かす方法
持ち家は、住まいとしてだけでなく、大きな資産として老後資金を補う手段になります。ここでは、持ち家を活かした資産作りの方法を4つ紹介します。
1.リースバック
リースバックとは、自宅を不動産会社に売却したあと、その家に賃貸として住み続けることができる仕組みです。
売却すると、まとまった現金を得られます。また、住み慣れた家にそのまま住み続けられるため、引越しの手間や入居の手続きなどのストレスを軽減できるのも大きなメリットです。
一方で、毎月の賃貸料を支払い続ける必要があります。所有権を手放すため、家を資産として利用することができなくなる点にも注意しましょう。
リースバックは、手もとに資金を確保しつつ、現在の住環境を維持したい方に適しています。
2.リバースモーゲージ
リバースモーゲージとは、持ち家を担保に金融機関から融資を受ける仕組みです。
「リバースモーゲージ」という名前は、「リバース=逆の」「モーゲージ=住宅ローン」を意味します。通常の住宅ローンとは異なり、借入残高が徐々に増えていく仕組みです。
契約者は生前に返済を行なう必要がなく、契約者の死亡後に持ち家を売却することで返済が行なわれます。毎月の支払いが利息のみで済むため、生活費の負担を大幅に軽減できます。
デメリットは、金利の変動リスクです。金利が上昇すると返済額が増える可能性があります。
不動産価値が下落した場合には、追加の担保が求められることもあります。そのため、契約前には慎重に検討しましょう。
リバースモーゲージの取り扱いは、各都道府県の社会福祉協議会や金融機関です。
3.持ち家の売却
現在の住まいを売却すればまとまった現金を得ることができ、その資金をもとに新たな生活設計を進められます。
売却後は、高齢者向け住宅や、よりコンパクトな物件に住み替えが可能です。老後の生活スタイルや、ライフステージに合った住まいを選びましょう。
一方で、売却や引越しに際しては、物件探しや契約手続き、引越しそのものに時間や手間がかかるため、ストレスを感じるかもしれません。
不動産市場の動向による売却価格の変動で、希望する金額での売却が難しい場合もあります。これらを踏まえたうえで、持ち家の売却を計画的に進めることが大切です。
4.持ち家を貸し出す
持ち家を賃貸物件として貸し出すと、毎月の家賃収入が期待でき、自宅を手放すことなく資産として有効活用できます。
例えば、家賃が月額10万円の場合、年間で約120万円の収入が見込めるでしょう。
一方で、この方法にはいくつかのリスクもともないます。借り手が見つからない場合には収入が得られず、維持費や修繕費などのランニングコストがかかります。
また、賃貸借契約に関連するトラブルが発生することもあり、問題解決に時間や労力を要するケースも考えられます。
これらを考慮し、管理会社に管理を委託することも視野に入れて、リスク管理をしながら賃貸運用を進めることが重要です。
持ち家を活かす方法以外で50代の方ができる老後資金準備方法
老後資金を効率良く準備するためには、持ち家の活用以外にもさまざまな方法があります。毎月の支出を見直すことや、資産運用を始めることなど、具体的な手段を以下に解説します。
無駄な支出を抑える
老後資金を効率的に準備するための第一歩は、無駄な支出を抑えることです。家計のお金の流れを把握することで、貯蓄に回すお金を増やせます。
例えば、買い物に対する考え方を見直すだけでも節約につながります。医療費が高額になった場合には、高額療養費制度を利用できる可能性があります。
自己負担額を抑えられるため、該当する場合は忘れずに利用しましょう。
固定費を見直す
固定費の見直しは、一度手間をかければ長期的な節約効果を期待できる方法です。
保険料やサブスクリプションサービス、通信費などを再検討しましょう。
例えば、保険内容が老後の生活に合っているか確認し、不要な補償を削ることで保険料を抑えられる場合があります。
通信費は、格安SIMへの切り替えが効果的です。
資産運用を始める
資産運用は、貯金を効率良く殖やす手段の一つです。
50代からでも遅くなく、少額から始められる方法も多いため、無理なく取り組めます。以下に代表的な運用方法を紹介します。
・投資信託投資信託は、プロの運用者が複数の資産に分散投資を行なうため、初心者でも比較的始めやすい金融商品です。
分散投資によりリスクを抑えられる一方、元本が保証されないリスクや手数料がかかる点に注意しましょう。
・株式投資
株式投資は、企業の成長にともない利益を得られる方法です。
長期的な資産形成に適していて、配当金や株主優待が得られるというメリットがあります。ただし、価格変動のリスクもともなうため、少額から始めて長期的な視点で運用するのがおすすめです。
・債券投資
債券は、株式投資やFXと比較した場合にリスクが低く、定期的な利息収入が得られる金融商品です。
利回りは定期預金と比べると高く、株式投資に比べて低い傾向があります。
ただし、安定した収益を期待できるため、「投資を始めたいけれど価格の変動が不安」という方、リスクを抑えたい方に向いています。
・おすすめの制度
老後資金準備に最適な制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)があります。
iDeCoは、掛け金が全額所得控除され、運用益が非課税になる制度です。60歳以降に受け取れるため、老後資金を効率的に準備できます。
NISAは、年間360万円(旧NISAでは年間120万円)の投資まで運用益が非課税となる制度です。少額から始められるため、資産運用初心者におすすめです。
まとめ
・平均貯金額や必要資金
・収入と支出の計算方法
・持ち家の活用法
・資産運用の選択肢
50代の老後資金準備において大切な以上の点を解説しました。
50代の多くが十分な老後資金を確保できていない実態を踏まえると、無駄な支出削減や資産運用の活用が重要となります。
持ち家を売却したり賃貸として活用したりする方法、iDeCoやNISAを利用した効率的な資産運用も有効です。
老後生活に必要な金額を把握し、早めの計画で安心した生活を目指しましょう。
齋藤 彩(さいとう あや)
独立系FPとして資産運用や保険提案、ローン、住宅購入などの個人向け相談業務を中心に、中小企業への企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の導入支援も行なう。また、お金の知識をわかりやすく伝えるため、金融メディアへの執筆・監修活動もしている。
<保有資格>CFP、1級FP技能士