認知症による徘徊 理解と対策
認知症は、高齢化社会が進む日本において大きな課題となっています。その中でも、認知症患者の「徘徊」は、本人の安全はもちろん、家族や地域社会にとっても深刻な問題です。
この記事では、認知症に伴う徘徊について理解を深め、効果的な対策を考えていきます。
認知症の親を持つ子供世代、または自身や配偶者の将来に備えたい方々にとって、有用な情報となることを願います。
認知症の基礎知識
認知症とは
認知症は、単一の病気ではなく、様々な原因によって起こる脳の障害の総称です。主な症状には、記憶力の低下、判断力の減退、言語能力の低下、見当識障害などがあります。これらの症状により、日常生活に支障をきたすようになるのが認知症の特徴です。
認知症の主な種類や詳細については、こちらの記事で解説しています。
ぜひご覧ください。
徘徊とは
認知症に伴う徘徊とは、認知症の人が目的もなく歩き回ったり、自宅から出て行ったまま戻れなくなったりする行動を指します。徘徊は単なる「わがまま」や「困った行動」ではなく、認知症の症状の一つとして理解する必要があります。
認知症患者の徘徊が起こる主な理由には以下のようなものがあります。
場所の見当識障害
自分がどこにいるのかわからなくなります。
時間の見当識障害
今が何時なのか、何をすべき時間なのかがわからなくなります。
過去の記憶への没頭
昔の仕事や習慣を思い出して、その通りに行動しようとします。
不安や焦燥感
周囲の環境の変化に適応できず、落ち着かなくなります。
身体的な不快感
トイレに行きたい、お腹が空いたなどの欲求を適切に表現できなくなります。
徘徊は、認知症の人にとっては何らかの目的や意味のある行動である場合が多いのです。
そして徘徊と呼ばれる症状は、歩く能力・動く能力がある限り、誰にでも起こる可能性があります。歩き回るだけでなく、自転車や自動車に乗って出ていくこともあるのです。
徘徊のリスクと影響
認知症患者の徘徊は、本人の安全を脅かすだけでなく、家族や社会にも大きな影響を及ぼします。
まず、本人にとっての最大のリスクは事故や怪我です。
交通事故に遭う危険性が高くなるほか、転倒によるケガ、脱水や低体温症などの健康被害も懸念されます。また、慣れない場所で長時間過ごすことによる精神的なストレスも大きな問題です。
ちなみに、2016年の桜美林大学老年学総合研究所の調査によると、行方不明から5日間経過すると生存率が0%となるという結果が出ています。
家族や介護者にとっては、常に目を離せないという精神的な負担が大きくのしかかります。徘徊が頻繁に起こると、仕事や私生活に支障をきたす可能性も高くなります。
夜間の徘徊による睡眠不足は、介護者の健康状態にも悪影響を及ぼします。
そして、徘徊は徒歩だけではありません。自転車や自動車で出かけ、そのまま行った先で自分がどこにいるのか、どこへ帰るのかも忘れてしまい、徘徊している間に他人を巻き込んで事故を起こしてしまったケースもあるのです。
そして、社会的な影響も無視できません。
徘徊による行方不明者の捜索には、警察や地域住民の協力が必要となり、多大な時間と労力、そして費用がかかります。また、徘徊を繰り返す認知症患者がいることで、地域の安全に対する不安が高まる可能性があるとともに、先ほども述べた通り事故に巻き込まれる可能性も高くなります。
これらのリスクと影響を考慮すると、徘徊の予防と適切な対応が非常に重要であることがわかります。
徘徊の予防と対策
徘徊を完全に防ぐことは難しいですが、適切な予防策を講じることで、その頻度や危険性を減らすことができます。以下に、効果的な予防と対策をいくつか紹介します。
環境整備
自宅内での安全対策は、徘徊予防の第一歩です。
まずは、玄関や出入り口の工夫から始めてみましょう。
- ドアチャイムやセンサーを設置し、出入りを把握する。
- 玄関に鍵をかける際は、内側からも開けられる安全な方法を選ぶ。
- カーテンで出入り口を隠し、注意を引かないようにする。
こうすることで、周りの人が外出に気づくことができます。
危険物の管理
包丁や薬品など危険なものは施錠できる場所に保管しましょう。
転倒防止
認知症患者の有無に限らず、家族が高齢になったら廊下や階段に手すりを設置し、床の段差をなくしましょう。
手すりの活用についてはこちらの記事を参考にしてください。
手すりをとりつけるべき場所や手すり設置にあたっての注意事項を解説しています。
日常生活の工夫
規則正しい生活リズムを維持することで、不安や混乱を減らすことができます。
- 決まった時間に起床、食事、就寝をする。
- 日中の活動と夜間の睡眠のリズムをはっきりさせる。
- カレンダーや時計を目につく場所に置き、時間の感覚を保つ。
徘徊が怖いからといって、部屋に閉じ込めたり、靴を隠して家から出られないようにするなどは、かえってストレスを与えることになり、暴力や暴言につながります。
裸足でも出歩くかもしれませんし、どうしても外へ出たいがために2階の窓から飛び降りるかもしれません。これではかえって大けがをさせてしまいます。
認知症を患っても一人の人間であることには変わりありません。徘徊のリスクや危険性を少なくするためのことを考える必要があるのです。
適度な運動と活動を促すことで、ご本人のストレス発散にもなるでしょう。
- 散歩や軽い体操を日課に組み込む。
- 趣味や家事など、楽しみながらできる活動を見つける。
- デイサービスなどの社会活動に参加する。
など、これらのきっかけ作りを周囲の人から積極的にしていくとよいでしょう。
コミュニケーションをとる
患者の気持ちを理解する努力が大切です。
言葉だけでなく、表情や仕草にも注目しましょう。
そして否定せず、共感的な態度で接してください。 過去の経験や好みを把握すると、会話に活かすことができます。
不安や混乱を軽減する対話方法を心がけることも大切です。
ポイントは
- ゆっくりと、はっきりした口調で話す。
- 複雑な質問は避け、簡単な言葉で伝える。
- 選択肢を提示し、自己決定の機会を与える。
などです。
テクノロジーの活用
最新のテクノロジーも徘徊対策に役立ちます。
GPS機器の利用
小型のGPS端末を持ち歩いてもらい、位置情報を把握する。
見守りセンサー
ドアの開閉や室内の動きを検知し、スマートフォンに通知する。
スマートウォッチ
健康状態の監視と位置情報の把握を同時に行える。
ただし、プライバシーへの配慮も忘れずに、本人の同意を得ることが重要です。
徘徊が起きた時の対応
徘徊が発生した場合、冷静かつ迅速な対応が求められます。以下の準備と手順を心がけましょう。
事前の準備
最近の写真と詳細な特徴を記録しておく。
よく行く場所のリストを作成する。
服薬情報や持病などの医療情報をまとめておく。
警察や地域の協力体制を確認しておく。
徘徊発生時の対応手順
1. まず、落ち着いて家の中を確認する。
2. 近所の定期巡回場所を素早く確認する。
3. 家族や知人に連絡し、捜索の協力を求める。
4. 1時間以内に見つからない場合は、警察に届け出る。
5. 地域の認知症ネットワークがあれば、活用する。
捜索時の注意点
本人が好きだった場所や昔よく行った場所を重点的に探す。
公共交通機関の駅や停留所にも注意を払う。
季節や天候に応じた危険箇所(川や崖など)も確認する。
SNSなどを活用し、広く情報を拡散する。
徘徊から無事に帰宅できた場合は、叱責せず、安心させることが大切です。また、なぜ外出したくなったのかを理解しようと努め、再発防止に役立てましょう。
家族や介護者のケア
認知症患者の介護は、家族や介護者に大きな負担がかかります。自身の心身の健康を保つことも、長期的な介護には不可欠です。
- 自分の限界を知り、無理をしすぎない。
- 気分転換の時間を定期的に設ける。
- 運動や趣味など、ストレス解消法を見つける。
これらを心がけてください。自分自身のケアを怠らないことが、結果的に良質な介護につながります。
無理をせず、 デイサービスやショートステイも活用し、介護の休憩を取りましょう。
家族や友人に協力を求め、一時的に介護を代わってもらうのもいいかもしれません。
一人で抱え込まず、介護サービスを上手に活用し、負担を少しでも軽減してください。
そして同じ悩みを持つ人々と交流し、情報や経験を共有することもよいでしょう。
地域によってはサポーター制度など、相談窓口を設けている場合もあります。専門家のアドバイスを受ける機会をもったり、同じ悩みを持つ人々と交流し、情報や経験を共有することもよいでしょう。
遠慮せずに周囲のサポートを求めることも大切です。
まとめ
認知症に伴う徘徊は、本人、家族、そして地域社会全体にとって大きな課題です。しかし、適切な理解と対策、そして地域全体での支援体制があれば、その影響を最小限に抑えることができます。
重要なポイントを再確認しましょう。
- 徘徊は認知症の症状の一つであり、本人なりの理由がある。
- 環境整備や日常生活の工夫で予防できることが多い。
- 家族や介護者自身のケアも忘れずに。
- 地域全体で見守り、支援する体制づくりが重要。
認知症と徘徊の問題に完璧な解決策はありませんが、希望を持って取り組むことが大切です。医療の進歩や社会の理解の深まりにより、状況は確実に改善されつつあります。
一人一人が認知症について正しく理解し、支え合う姿勢を持つことが、安心して暮らせる地域社会につながります。一人一人が出来ることから始め、認知症の人とその家族が安心して暮らせる社会を目指していきましょう。