認知症の早期発見:兆候と予防方法
「最近、親の言動がおかしいと感じているけど、認知症なのかな?」と不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「自分は健康だし、認知症にはならない…」と思う一方、年々認知症患者数が増加していることから不安になる人も少なくないでしょう。
本記事では、認知症になりやすい人の特徴を挙げ、認知症を予防するためにできることを解説します。
記憶力、思考力、集中力、性格・行動の変化など、認知症の始まりを疑わせるサインを見つけることで、早期発見に繋げることができます。認知症の早期発見は、治療や介護の開始時期を早めるだけでなく、患者さん自身のQOL(生活の質)向上にも大きく貢献します。
この記事を読んで、ご自身の健康管理にも役立ててください。
認知症とは
認知症は、記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたす症状の総称です。
日本では高齢化に伴い、認知症患者数が増加しており、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。認知症は誰にでも起こり得る病気ですが、リスク要因を知り、適切な対策を取ることで発症リスクを軽減できる可能性があります。
認知症になりやすい人の特徴
認知症になりやすい人の特徴はあるのでしょうか?
認知症のリスク要因は多岐にわたります。年齢や遺伝的要因、生活習慣、既往歴など、様々な要素が複合的に作用して認知症発症のリスクを高めます。
一つ一つの要因から、どのような人がなりやすいか詳しく解説します。
年齢要因
高齢者
加齢は認知症の最大のリスク要因です。65歳以上で発症リスクが高まり、年齢とともにさらに上昇します。
しかし、65歳未満で発症する若年性認知症もあり、働き盛りの世代にも注意が必要とされています。
遺伝的要因
両親や兄弟姉妹に認知症患者がいる場合、リスクが高くなる傾向があると言われています。
最近の研究では特定の遺伝子変異(例:APOE-ε4遺伝子)との関連が指摘されており、アルツハイマー型認知症のリスクを高めることが知られています。
生活習慣要因
不健康な生活を送っていると、そのぶんリスクを高めます。
高脂肪・高カロリーな食事や、野菜・果物の摂取不足、運動不足は認知症リスクを高めます。
他にも喫煙や過度な飲酒などの習慣は脳の健康に悪影響を与えます。
これらが原因で睡眠の質の低下を招く恐れがあります。慢性的な睡眠不足は認知機能に悪影響を及ぼします。
年齢、男女問わず、不健康な生活を送っていないか今一度チェックしてみましょう。
既往歴・健康状態
以下の病気にかかったことがある場合は、注意が必要です。
高血圧
長期間コントロール不良の高血圧は、脳血管障害のリスクを高め、認知症発症につながる可能性があります。
糖尿病
血糖値の管理が不十分な糖尿病患者は、認知症リスクが高まります。
高コレステロール
動脈硬化を促進し、脳の血流を悪化させることで認知機能に影響を与えます。
うつ病
うつ病と認知症には関連があり、うつ病の既往がある人は認知症リスクが高くなる傾向があります。
頭部外傷の既往
重度の頭部外傷の既往は、認知症発症リスクを高める可能性があります。
認知症の種類と特徴
認知症には様々な種類があり、それぞれ特徴的な症状や進行パターンがあります。
アルツハイマー型認知症
最も一般的な認知症で、全体の約60~70%を占めます。
特徴として記憶障害(特に最近の出来事の記憶)が初期から顕著であること、そして徐々に進行するにつれ判断力や言語能力が低下していくことが挙げられます。
脳内にアミロイドβタンパク質の蓄積が見られ、これが神経細胞を破壊し発症させています。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で起こる認知症です。記憶障害よりも判断力や実行機能、歩行などの運動機能の低下が目立つことが特徴です。
この症状は段階的に進行していくことが多いため、生活習慣の改善やリハビリなどで症状の進行を遅らせることができる可能性があります。
レビー小体型認知症
パーキンソン病に似た症状を伴う認知症です。パーキンソン病と同様に、歩行障害や筋肉のこわばりなどが症状としてみられます。特に注意力や集中力の変動が大きく、気分や態度がその時によって変わりやすいのが特徴です。
前頭側頭型認知症
これは比較的若い年齢(50-60代)で発症することが多い認知症です。
性格の変化や社会的行動の変化(反社会的な行動が増えるなど)が初期症状として現れ、言語障害(特に意味性認知症)が顕著な場合があります。そのため周囲の状況に関係なく、同じパターンの言動を繰り返します。
記憶障害は初期には目立たないことが多いものの、症状が進むにつれ物の名前を忘れてしまい、言葉が出なくなっていきます。
認知症の初期症状と気づきのポイント
認知症の早期発見には、初期症状を知ることが重要です。以下のような変化に注意しましょう。
- 最近の出来事を忘れやすくなる
- 同じことを何度も聞いたり話したりする
- 約束を忘れる、物の置き場所を頻繁に忘れる
- 忘れ物が多くなる
加齢に伴う記憶力低下と認知症による記憶力低下の大きな違いは、忘れられた事実自体を思い出せなくなる点にあります。
高齢者の中には、昨日の夕食のメニューを尋ねられてもすぐに思い出せないケースは少なくありません。しかし、時間をかけて思い出せる方や、ヒントによって思い出せる方がほとんどです。
一方、認知症の場合、夕食を食べたこと自体を忘れてしまう状態になります。つまり、夕食を忘れていることを自覚することが困難となり、日を追うごとに症状が悪化していく傾向が見られます。
加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れを見分けるためには、日常生活における記憶力の変化に注意することが重要です。もし、頻繁に物事を忘れたり、以前はできていたことが難しくなったり、日常生活に支障をきたすようであれば、医療機関を受診することをお勧めします。早期発見・早期治療が、認知症の進行を遅らせるために重要となります。
- 複雑な作業や計画を立てることが困難になる
- 金銭管理にミスが増える
- 新しいことを覚えるのが難しくなる
認知症の初期症状として、理解力や判断力の低下が見られることがあります。
例えば、家族との会話に付いていけなくなったり、買い物時の金額計算が難しくなったりします。これは、外部からの情報を迅速に理解し、判断する能力が衰えていることを示しています。そのため、状況に応じて柔軟に対応することが難しくなり、信号が赤なのに渡ろうとしたり、青に切り替わっても渡るタイミングが分からなくなったりすることもあります。
集中力や注意力が散漫になる
集中力や注意力の低下は、認知症の初期症状として見られることがあります。以前は集中して読めていた新聞や本を読まなくなったり、テレビ番組の内容が理解できず、テレビを見る習慣が減ったりするなど、日常生活に変化が現れる場合があります。この変化が現れるころには集中力や注意力が散漫になることが多く、会話中に話が脱線したり、一つのことに集中するのが難しくなったりといった形で表れます。
認知症が進行すると、性格や行動に変化が現れることがあります。以前は穏やかな人だったのに、急に怒りっぽくなったり、趣味や嗜好が変わったりすることがあります。
また、意欲が低下し、以前は楽しんでいた趣味を突然やめてしまうこともあります。さらに、身だしなみに無頓着になる場合も見られます。
性格の変化は、怒りっぽく攻撃的になる場合だけでなく、やる気が低下して落ち込むことが増え、うつ病のような症状を呈する場合もあります。このような変化は、認知症の初期症状として現れることもあります。
これらの初期症状は、以前は問題なく行えていた家事や買い物に苦労するなど、日常生活における様々な場面で困難を感じるようになることもあります。
認知症の早期発見は非常に重要です。これらの兆候に気づいた場合は、医療機関への受診を検討することをお勧めします。
認知症予防のための生活習慣
認知症の発症リスクを下げるために、以下のような生活習慣の改善が効果的です。
バランスの良い食事をとる
栄養に偏りのない食事を心がけましょう。
高齢になると量を多く摂れなくなっていきますが、量を減らした分回数を増やすなどの工夫もできます。
健康的な食事についてのポイントはこちらの記事で解説しています。
あわせてご覧ください。
他にも、オリーブオイル、魚、野菜、果物、全粒穀物を中心とした「地中海式食事法」は認知機能の低下を抑制する可能性があると言われています。
ブルーベリーやほうれん草などの抗酸化物質が豊富な食品は、脳の健康維持に役立ちますので日々の食事に積極的に取り入れましょう。
適度な運動習慣
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、脳の血流を改善し、認知機能の低下を防ぐ効果があります。筋力トレーニングも認知機能の維持に有効で、週2-3回の実施が推奨されています。
あまり運動する習慣がないという方は、まずは簡単なストレッチから日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
十分な睡眠
質の良い睡眠は脳の休息と修復に不可欠です。7-8時間の睡眠を心がけ、規則正しい睡眠サイクルを維持しましょう。
社会的交流の維持
友人や家族との交流、地域活動への参加など、社会とのつながりを持ち続けることが認知機能の維持に重要です。
知的活動の継続
読書、パズル、新しい趣味の習得など、脳を使う活動を続けることで、認知機能の低下を遅らせる可能性があります。
最近ではスマホのアプリでも気軽に脳トレができます。こちらの記事を参考に、ぜひチャレンジしてみてください。
ストレス管理
慢性的なストレスは認知機能に悪影響を与えます。瞑想やヨガ、深呼吸法などのリラックス法を取り入れ、ストレス管理に努めましょう。
認知症の早期発見と対応
認知症は早期発見が重要です。適切な治療や支援を受けることで、症状の進行を遅らせ、よりよい生活の質を維持することができます。
介護する側の負担を少なくすることにもつながります。
定期的に健康診断を受ける
年1回の健康診断を受け、血圧や血糖値、コレステロール値などをチェックすることで、認知症のリスク要因を早期に発見し、対策を立てることができます。
認知機能検査を受ける
物忘れが気になる場合は、かかりつけ医や専門医療機関で認知機能検査を受けることをおすすめします。MMSE(Mini-Mental State Examination)やHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)などの検査があります。
家族とのコミュニケーションを大切にする
ご家族との会話の中で、同じ質問を繰り返したり、日付や場所が分からなくなったりするなど、認知機能の衰えを感じることがあるかもしれません。こうした状況は、加齢に伴う自然な変化と捉えがちですが、中には認知症のサインである可能性も考えられます。認知症は、初期段階では軽微な症状から始まり、徐々に進行していくことが多いです。
高齢の家族と定期的にコミュニケーションを図り、小さな変化に気づくことが早期発見につながります。
普段と異なる言動や行動に気づいたら、注意深く観察しましょう。
物忘れや判断力の低下などの兆候が見られる場合は、本人不在でも「もの忘れ外来」への受診を検討することが有効です。本人自身は受診を嫌がる場合もあるため、無理強いしたり、プライドを傷つけるような言動は避け、かかりつけ医に相談することも選択肢の一つです。
早期に治療を開始することで、症状の進行を遅らせ、可能な限り自立した生活を維持できる可能性があります。
まとめ
認知症は誰にでも起こりうる病気ですが、リスク要因を理解し、適切な予防策を講じることで、発症リスクを軽減できる可能性があります。健康的な生活習慣を心がけ、定期的な健康チェックを行うことが大切です。
また、早期発見・早期対応が重要であり、気になる症状があれば躊躇せず医療機関を受診しましょう。認知症に対する正しい理解と、進行を遅らせるための予防対策を知っておくことで、ご自身やご家族の健康状態に注意を払うことができます。認知症のリスクを軽減し、より健やかな生活を送りましょう。