年齢を重ね、「食が細くなった」「体重が減ってきた」と感じる方もいるでしょう。
高齢者の極端な体重減少は健康面でさまざまなリスクをもたらす恐れがあるため、食事をしっかりと摂って適正体重を維持することが欠かせません。
そこで大切なのが、少量でも栄養価の高い食べ物を取り入れる工夫です。
本記事では、高齢者の栄養補給の重要性や体重減少の原因とリスクを解説します。
また、少量で高栄養価の食材やおすすめの食事改善方法をご紹介しているので、体重や健康の維持の参考にしてください。
栄養価の高い食べ物を食べて体重減少を抑えよう
年齢を重ねるにつれて、体の変化とともに食事の摂り方にも工夫が必要になります。
特に体重の減少が続くと、健康面への影響が大きくなるため注意が必要です。
ここでは、高齢者にとっての栄養補給の重要性と、体重減少によって起こるリスクについて解説します。
高齢者の栄養補給の重要性
極端な体重減少は、筋力や免疫力の低下、生活の質の低下につながります。風邪や肺炎といった感染症にもかかりやすくなるため、健康状態を維持するには適正な体重を保つことが大切です。
しかし、高齢になると、噛む力や飲み込む力が弱くなり、食事そのものが負担になる場面があります。また、少しの量しか食べられない方もいるでしょう。
そのような方が体重を維持するには、少量でもしっかりと栄養が摂れる食事が必要です。
加えて、無理のない範囲での軽い運動や、ストレスの少ない生活環境を整える工夫も健康維持に欠かせません。
体重減少とサルコペニアやフレイルの関係
食事が思うように摂れずに体重が落ちてしまうと、筋肉も減りやすくなります。
高齢者の筋肉量が加齢によって減少したり、筋力が低下したりする疾患を「サルコペニア」といい、日常生活に悪影響を与えてしまうのです。
筋力が弱まると、立ち上がりや歩行などの基本的な動作にも支障が出るようになります。
そしてサルコペニアが進行し、日常生活において他者のサポートを必要とする虚弱状態となるのが「フレイル」です。
フレイルになると、転倒や骨折のリスクが高まり、日常生活での自立が難しくなります。
サルコペニアやフレイルを未然に防ぐには、筋肉量や適正体重の維持が重要です。
栄養価の高い食事を摂り、可能な範囲で体を動かす生活習慣が、将来的な健康や自立した生活の維持につながります。
そもそもなぜ高齢者の体重は減りやすいの?
高齢者の食が細くなるのは、単に体力や身体機能の低下だけが原因ではありません。
ここでは、食欲不振に陥りやすいおもな理由を3つ解説します。
機能低下や病気など身体的な理由
年齢を重ねると、味や香りを感じる力が衰えてきます。
また、食べ物を飲み込む力も弱まり、食事が負担に感じられる傾向があります。
こうした身体機能の変化により、食欲が自然に減ってしまうケースが少なくありません。
さらに、胃腸の働きが低下し、食べたものを処理しきれなくなるのも食欲不振となる原因の一つです。
加えて、病気による体調不良や、治療の一環としての食事制限、薬の副作用なども、食欲不振の原因となる可能性があります。
ストレスなど精神的な理由
高齢になると、健康や介護、将来への不安、経済的な心配など、さまざまなストレスを抱える傾向があります。こうした心理的な負担も、食欲低下の一因です。
認知症の場合、環境変化や日常生活への戸惑いがストレスとなり、食欲に影響する場合も考えられます。
一人暮らしなど社会的な理由
一人で食事をする日々が続くといった社会的な環境によって食欲が減退する可能性も挙げられます。
食への関心が薄れ、食事の回数や量が減ってしまうのです。経済的な事情から食費を切り詰めて、十分に栄養を摂れないケースもあるでしょう。
厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」でも、こうした独居や孤独感、貧困といった社会的要因が、高齢者の低栄養や過栄養の一因として指摘されています。
高齢者が元気で暮らすために栄養価やバランスを意識しよう!
高齢者が毎日を健康に過ごすには、栄養バランスのとれた食事が欠かせません。五大栄養素である炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルをしっかり摂る必要があります。
高齢者は、特にたんぱく質や高エネルギーな食品を意識して摂り入れましょう。また、骨を丈夫に保つためにカルシウム摂取も重要です。それぞれの栄養素を含む食品の特徴を見ていきましょう。
高齢者向けのたんぱく質を多く含む食べ物
たんぱく質は、筋肉や骨、血液といった「体のもと」になる栄養素で、筋肉量を維持するために特に重要です。
鶏肉、魚、卵、納豆、チーズなどの乳製品には、良質なたんぱく質が多く含まれています。高たんぱくな食品を、積極的にとり入れて体力維持につなげましょう。
食が進まない場合は、プロテインなどの栄養補助食品を取り入れるのも効率的にたんぱく質を補う有効な方法です。
良質な脂質を含む食べ物
脂質は、少量でも多くのエネルギーを得られる栄養素です。たんぱく質や炭水化物よりも多くのエネルギーを生み出します。良質な脂質を含むアボカド、ナッツ、青魚などを食事へ積極的に取り入れるとよいでしょう。
また、オリーブオイルに多く含まれる一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)は血液中の悪玉コレステロールを下げる働きがあり、他の植物油よりも酸化しにくいため、日常使いにおすすめです。
脂質を含むマヨネーズやドレッシングを適度に使うと、手軽にカロリーアップできます。
適量の炭水化物
炭水化物は、日常生活を送るうえで必要なエネルギー源となる栄養素です。ご飯やパン、麺類、じゃがいもなどから摂取できます。さらに、砂糖をはじめとした甘味類や果実類からも摂取可能です。
特に、そばやじゃがいもは炭水化物の一種である食物繊維も多く含んでおり、血糖値の急上昇を抑制したり、腸内環境を整えたりする効果が期待できます。
一方で、砂糖が多い食品を摂取すると血糖値を急激に上昇させやすいため、摂り過ぎに注意しましょう。
ビタミンを多く含む食べ物
ビタミンは、おもに13種類あり、どれも体調を整えるうえで欠かせない栄養素です。
ビタミンが不足すると、あらゆる不調を招きます。しかし、ビタミンは体内でほとんど作れないため、食事からの摂取が必要です。
老化に打ち勝つには、抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eが欠かせません。また、丈夫な骨を維持するには、ビタミンDやKの補給が重要です。
ビタミンAはほうれん草やにんじんに、ビタミンCはキウイフルーツやいちごに、ビタミンEはアーモンドなどに豊富に含まれています。
また、ビタミンDは鮭、ビタミンKは納豆などに豊富なため、多種類の食品をまんべんなく使用するとビタミンをバランス良く摂取しやすいです。
ミネラルを多く含む食べ物
ミネラルも、健康維持に欠かせない栄養素です。代表的なミネラルには、カルシウムや鉄分、亜鉛などがあります。
カルシウムは骨や歯の主要な構成成分であり、鉄分は全身に酸素を運ぶ重要成分です。亜鉛は、正常な味覚の維持に関わっています。
乳製品や小魚にはカルシウムが、レバーやナッツ類には鉄分や亜鉛が豊富です。偏りなく多彩な食品を使うと、ミネラルをバランス良く摂取しやすくなります。
高齢者に必要なカロリーは?
適正な体重を維持するために、1日に必要なカロリーを把握しておきましょう。次の図は、農林水産省が提示している世代別の目安カロリーです。
必要なカロリーは、性別や年齢、身体活動量により異なります。
個人差はありますが、65~69歳の男性は1日に2,000~3,000キロカロリーほど、女性では1,400~2,400キロカロリーほどが目安です。
高齢者におすすめの、少量で栄養価が高い食べ物とは?
高齢となり、食事量が自然と減ってきた場合には、少量でも栄養価が高い食品を選んで食べましょう。
乳製品や果物、洋菓子などがその一例です。無理なく食べられて、しっかり栄養を補える食材をご紹介します。
乳製品
乳製品は、カルシウムを効率良く摂取できる食材です。飲み物やおやつとして取り入れやすく、日々の食生活に加えやすいのも特徴です。
ドライフード(乾燥食品)
ドライフード(乾燥食品)は、少量で効率的にカロリーを補給でき、ミネラルの一種であるカリウムや、食物繊維を手軽に摂れる食品です。
保存性が良く、手軽に食べやすい点が魅力です。
<例>
・ 干しいも
・ バナナチップス
・ ドライプルーン
・ アーモンド
洋菓子
洋菓子には、糖質や脂質などのエネルギー源が多く含まれており、少量でも効率的にカロリーを補給できます。食欲がないときにも食べやすいのが魅力です。
<例>
・ プリンやゼリー
・ アイスクリーム
・ カステラ
・ チョコレート
・ マシュマロ
ご飯がすすむ食品
下記の食品は、高たんぱくであり、脂質を程よく含んでいます。ご飯との相性が良く、食欲がないときも食べやすい食品です。
<例>
・ まぐろ
・ しらす
・ サバ缶
・ 肉そぼろ
高齢者の方も簡単にトライ!一工夫で栄養価アップ!
普段の食事に少し手を加えるだけで、手軽に、効率良くエネルギーをチャージできる食卓にできます。今すぐできる、栄養価を上げるための食材選びや調理のアレンジ方法をご紹介します。
・ ツナ缶やサバ缶は、水煮缶よりもオイル缶を
・ お味噌汁の具には、豆腐よりも油揚げを
・ 肉は、ムネ肉よりもバラ肉やロース肉を
・ 魚は、白身魚よりも脂が乗った青魚を
・ おかゆは、水よりも牛乳でミルク粥を
トッピングで栄養価アップ
いつものメニューに、高エネルギーな食材をトッピングして、カロリーアップしましょう。簡単に取り入れやすく、いろいろなパターンがあるのもポイントです。
・ふかしいもに、バターを乗せてじゃがバターにする
・コーヒーは、砂糖やミルクを加えてカフェオレにする
・おひたしは、白和えやごま和え、マヨネーズ和えにする
・おかゆは、卵がゆにする
・素うどんは、肉うどんにする
・食パンは、バターとジャムを塗る
調理方法で栄養価アップ
調理方法を工夫して、カロリーアップする手もあります。調理の際は、なるべく具だくさんにしたり、油を使用したりしましょう。
・ 白米を炊き込みご飯やチャーハンにする
・ 魚をフライにする
・ 鮭の塩焼きをムニエルにする
・ 野菜のおひたしを野菜炒めにする
・ ふかしいもをポテトフライにする
食欲がなく思うように栄養が摂れないときに試したい改善方法
食欲がわかないときや、思うように食事が摂れないときは、食材や調理方法だけでなく、食べ方や環境を工夫・改善するのも大切です。
無理なく、できることから少しずつ取り入れてみましょう。
簡単に食べられそうなものから食べる
体力が落ちて、食事そのものが負担になる場合は、噛み切りやすいもの、喉ごしが良いもの、さっぱりとしたものを選ぶと、食べやすくなります。
また、おにぎりのように調理や片付けの手間が少ない食べ物もおすすめです。
少量の食事を回数多く食べる
食卓にたくさんの料理を一度に並べると、食事が負担に感じられ、かえって食欲を失う場合があります。
一度に多くの量を食べられない場合は、少量ずつ複数回に分けて食べる方法が効果的です。
また、主菜から食べるように意識するとよいでしょう。お腹に余裕があるうちに、たんぱく質を多く含む食材を摂取することで、限られた量でも効率的に栄養を摂取できます。
栄養補助食品を活用する
なかなか食事量が増えず、栄養が不足しがちなら、栄養補助食品を活用するのも一案です。
カロリーだけでなく、たんぱく質やビタミン、ミネラルなど、健康維持に必要な栄養を効率的に補えます。
固形タイプやゼリータイプ、ドリンクタイプといった種類が豊富にあり、ドラッグストアやインターネットなどで気軽に購入可能です。
食べものが飲み込みにくいなど、栄養補助食品選びに不安がある際は、かかりつけ医や薬剤師、管理栄養士に相談しましょう。
食事の楽しさを取り入れる
誰かと一緒に食べる空間は、食欲を引き出す大切な要素です。家族や友人、趣味の仲間などと会話を楽しみながら食事する機会を作ってみましょう。
人が大勢いるレストランなど、自宅とは異なる空間で食事を摂るのもおすすめです。また、食器や盛り付け方にこだわるなど日々の食事に楽しみを見つける工夫も、食欲アップにつながるでしょう。
適度に運動を行なう
体調に問題なければ、軽い運動も食欲アップに効果的です。食前に散歩やストレッチといった軽い運動をすると、お腹がすいてくることがあります。
また、適度な運動は食欲増進だけでなく、気分転換やストレス軽減にもつながるため、無理のない範囲で取り組んでみましょう。
高齢者の食事改善で注意すること
高齢者が栄養バランスの良い食生活を送るうえで、押さえておきたい注意点があります。
体の変化や生活状況に合わせて、無理のない工夫を取り入れましょう。
水分を補給する
食事量が減ると、水分の摂取量も不足しがちになります。
特に、高齢になると体内の水分量は若い頃より約10%少なくなるとされており、脱水リスクが高くなる可能性が指摘されています。
高齢者は脱水状態になりやすいため、意識的に水分を補給しましょう。
水分の補給方法としては、水やお茶を飲むだけでなく、味噌汁やスープなどの汁物を積極的に食事に摂り入れる方法も効果的です。
食事量や運動量を把握する
自分が1日にどのくらい食べて、どのくらい体を動かしているかを把握するのは、食事を改善するための第一歩です。まずは、1日の食事内容や活動量を簡単に記録してみましょう。
体をよく動かす方と、あまり動かない方では、必要なエネルギー量が異なります。また、食事量を記録することで栄養バランスや体重変化にも気付きやすくなります。
病気や薬の影響を確認する
食欲が落ちる背景には、病気や服用している薬が影響しているケースもあります。
健康状態によって適切な対策は異なり、場合によっては摂取を控えたほうがよい食材や成分があるため、事前にかかりつけの医師に相談しましょう。
誤嚥など食の安全にも気を付ける
高齢になると、飲み込む力や噛む力が弱くなるため、誤嚥リスクにも注意が必要です。食材は食べやすい大きさに切る、固いものを避けるなど、食べやすい工夫をしましょう。
例えば、肉類はヒレ肉よりも脂肪分が多くてやわらかいバラ肉を選ぶなど、ちょっとした工夫で食事中の安全性を高められます。
まとめ
高齢になると、体や環境の変化により食事量や食欲が減りやすくなります。
筋力や免疫力を保ち、健やかな生活を続けるには、しっかりと栄養を摂取して体重減少を防ぐ心がけが欠かせません。
少量でも栄養価の高い食べ物を意識して選ぶとともに、いつもの食事をアレンジして積極的にカロリーを摂取しましょう。
また適度な運動、家族や友人と食事を摂るなど食の楽しさを見出すことは、心を健やかに保つ効果が期待できます。できることから無理なく始めて、体重と健康の維持に努めましょう。
高村 恵美(たかむら えみ)
給食会社にて病院や福祉施設での給食管理に従事した後、病院での栄養指導や保育園での乳幼児の食事づくりに携わる。正しい健康情報を伝えるために、ライティング技術や薬機法の知識を習得し、2022年にフリーランス管理栄養士として独立。
これまでに多数の健康コラムの執筆や食品関連の広告制作に携わっており、3児の母ならではの「がんばりすぎない」簡単レシピの提供や、長く続けられる健康的な生活習慣づくりをサポートする特定保健指導など、活動の幅を拡大中。