食べても瘦せてしまう? 原因や高齢者の体重増加のための食事
「高齢になって体重が減ってしまい、体力も落ちてきた…」そんな悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか?肥満は明らかな問題として認識されがちですが、体重が減少するのも問題です。高齢期の適切な体重維持は、日常生活の活力を保ち、病気への抵抗力を維持するために重要です。体重が減りすぎると、転倒のリスクが高まり、免疫力が低下し、様々な病気にかかりやすくなってしまいます。
本記事では、高齢者が食事を摂っているにもかかわらず起こる体重減少の原因を探り、その対策について詳しく解説していきます。ご本人はもちろん、ご家族の方々にも参考にしていただける情報をお届けします。
高齢者の体重減少の実態
厚生労働省の調査によると、75歳以上の高齢者の約3割が低栄養の傾向にあるとされています。特に注目すべきは、この数字が年々増加傾向にあることです。
体重減少は、単なる見た目の問題ではありません。適切な体重を維持できないことで、次のような影響が出る可能性があります。
- 筋力の低下による歩行困難
- 免疫力の低下による感染症のリスク増加
- 傷の治りが遅くなる
- 疲れやすくなる
- 認知機能の低下
フレイルとの関係
体重減少は、フレイル(虚弱)の重要なサインの一つです。
フレイルとは、加齢に伴う心身の活力低下によって生活機能が障害され、要介護状態になりやすい状態、つまり「健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間」を指します。
しかし、早期に気づいて適切な対策を取れば、改善することができます。
体重減少の主な原因
加齢とともに、胃腸の働きが弱くなり、消化・吸収能力が低下します。
その結果、食べ物の消化に時間がかかり、栄養素の吸収も悪くなります。そして満腹感を感じやすくなるため、少量しか食べられなくなります。
他にも、年を重ねると味覚や嗅覚が鈍くなることがあります。
食べ物の味わいやにおいを感じにくくなり、食欲が減退します。すると食事の楽しみも減少していきます。
このような身体的な要因だけでなく、社会的な要因や精神的な要因も絡んで、低栄養の状態になり体重が減少していきます。
低栄養の要因についてはこちらで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
低栄養を防ぐ!バランスの良い食事とは?
高齢者が体重を増やすためには、バランスの取れた食事をしっかりと摂ることが重要です。特に、効率的に栄養素を補給できる食べ物を意識することで、健康的な体重増加を促すことができます。
では具体的にどのような食べ物をとると良いのでしょうか?
栄養素別にご紹介いたします。
たんぱく質
タンパク質は、筋肉や臓器、ホルモンなどの重要な体の組織を構成する栄養素です。タンパク質は、体内で合成することができないため、食事から摂取する必要があります。
高齢者は加齢に伴い筋肉量が減りやすいため、積極的に摂取すると筋肉量の減少を防ぎ、体力維持に役立ちます。
タンパク質を多く含む食品には、次のようなものがあります。
- 肉類:鶏ささみ肉、鶏むね肉、豚ヒレ肉、牛もも肉
- 魚介類:いわし、あじ、まぐろ赤身、かつお
- 乳製品:牛乳、チーズ、ヨーグルト
- 豆類:豆腐、厚揚げ、高野豆腐
たんぱく質を多く含む食品の中には、脂質も豊富なものも存在します。
脂質の過剰摂取は、生活習慣病のリスクを高めるため、注意が必要です。良質なタンパク質を効率的に摂取するためには、これらのような脂質の少ない食品を選ぶことが大切です。
良質なたんぱく質をとる方法として、プロテインを活用するという方法もあります。詳しくはこちらで解説していますので、ぜひあわせて参考にしてください。
炭水化物
炭水化物は、活動のエネルギー源となる重要な栄養素です。
- ご飯
- パン
- 麺類:うどん、スパゲティ、そばなど
- いも類:じゃがいも、さつまいも、里芋、長芋など
ご飯、パン、麺類などから、毎食摂取するようにしましょう。
しかし、過剰摂取は血糖値の上昇や肥満の原因となるため、適切な量を意識することが重要です。
高齢者の場合、1日の摂取カロリーの50〜65%程度が、炭水化物量の目安となります。
具体的な目安としては、ご飯3杯分程度です。ご飯1杯分は、うどん1玉や6枚切りの食パン1枚に置き換えられます。これらの情報を参考に、食事のバランスを調整しましょう。
脂質
高齢者の体重増加には、少量でも高カロリーな脂質が役立ちます。しかし、すべての脂質が同じように効果があるわけではありません。重要なのは、良質な脂質を選ぶことです。
脂質には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類があります。健康に良いとされるのは不飽和脂肪酸です。体重増加を目指す場合でも、不飽和脂肪酸を積極的に摂取することが大切です。
具体的な食品をあげると まぐろやさば、しゃけ、さんま、あゆ、えごま油やアマニ油 に含まれています。
ビタミン
三大栄養素に加え、ビタミンを適切に摂取することも重要です。ビタミンは、体内でエネルギーを生み出し、筋肉や骨を維持するほか、免疫力を高めるなど、様々な働きをサポートします。中でも、ビタミンは三大栄養素の働きを円滑にする役割を担う重要なものでもあります。
ビタミンは、脂溶性と水溶性という2つのタイプに分類されます。
脂溶性ビタミンは、油に溶けやすく、体内に蓄積されやすい性質があります。そして脂溶性ビタミンは、体内で生成することが難しい栄養素です。一方、水溶性ビタミンは、水に溶けやすく、体内に蓄積されにくい性質があります。
ビタミンを豊富に含む食品には、次のようなものがあります。
- ほうれん草、小松菜、アーモンド、いわし、さんま、鮭、カボチャ、アーモンド、納豆、きのこ(脂溶性ビタミン)
- 人参、キウイフルーツやいちごなどの果物、うなぎ、レバー、卵(水溶性ビタミン)
ミネラル
ミネラルは体内に微量しか存在しませんが、体の機能を維持する上で重要な役割を果たします。酵素の構成成分
として、体の様々な活動を調整しています。
体内では合成できないため、食事から摂取する必要があります。バランスの取れた食事を心掛ければ、通常は不足することはありません。ただし、ミネラルの中でもカルシウムと鉄は高齢者において不足しやすい傾向があるため、意識的に摂取することが大切です。
- レバー、ほうれん草、卵(鉄分)
- えび、小魚、牛乳、乳製品(カルシウム)
これらの食品をバランス良く摂取することで、高齢者は必要な栄養素を効率的に摂取し、健康的な体重維持に役立てることができます。
高齢者の体重増加のための食事の工夫
高齢者は咀嚼能力が低下しています。そのため、できる限り柔らかく調理する、一口大に食品をカットするなどの工夫が大切です。
飲み込む力も衰えてきているので、飲み込みやすいようとろみをつけるのも良いでしょう。
そして、消化器官の衰えから一度にたくさんの量を食べられなくなっていきます。そのため、おやつ(間食)を活用することをおすすめします。
朝昼晩の食事以外で足りない栄養素をおやつ(間食)で補います。
味のついたゼリー状のおやつやプリン、果物であれば美味しく水分をとることができます。
チョコレートや羊羹などは喉が渇くので、水分補給のきっかけになるかもしれません。
家族ができること
高齢者は、体重増加のためには食事の改善が重要であることがわかりました。
食事量を把握し、必要な栄養素を積極的に摂取することは大事ですが、活動量も考慮し、消費カロリーと摂取カロリーのバランスを調整することが大切です。
日々の食事を記録すると、摂取量や不足している栄養素を認識することができるのでおすすめです。
そして食事量や栄養バランスなどだけでなく、そもそもの食事を楽しくするということも心がけると良いのではないでしょうか。
高齢者の単身世帯は年々増加しており、高齢者の親が遠方で暮らしていることも少なくありません。しかし一人で食事をとる「孤食」は高齢者にとって低栄養につながるきっかけでもあります。
できる限り、一人で食事をとることのないよう一緒に食事をとりましょう。遠方に住んでおり直接会えない場合は、オンラインでコミュニケーションを図る方法もあります。
どうしても家族では難しい場合は、デイサービスを利用し他の人と一緒に食事をとる機会をもうける、友人と一緒に食事をとるよう促すなど、声掛けしてみてください。
誰かと一緒に食事をとることで、一日の生活リズムが整いやすくなります。そして誰かと一緒に食事に対して「おいしいね」など共感が得られると、食欲促進にもつながります。
食事内容の改善や対策を講じても体重が増加しない場合は、病気や常備薬が原因となっている可能性がありますので、この場合は医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
まとめ
高齢者の体重増加は、健康的な生活を送る上で重要な課題です。
特に食事は体重増加に大きな影響を与えます。この記事では、高齢者の体重増加におすすめの食品について、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなど、栄養素別に詳しく解説しました。
栄養バランスがとれた食事だけでなく、家族と一緒に食事をとるようにするなど、ちょっとした工夫も大事です。
できることからぜひ実践してみてください。