熟年離婚の準備前に考えて置くべき事
熟年を迎えてから離婚をする場合、若い頃のとは異なり、決断を下すまでには入念な検討と慎重な準備が必要となります。
熟年時における準備は主に、 離婚後の生涯にわたる生活設計 と、 財産分与等の必要な条件の検討 です。
この2点を踏まえた上で、準備をすまし、判断を下すのが基本的な流れとなります。
熟年離婚により婚姻が解消されれば、その後は二人それぞれが単独で生計を維持しくため、特に金銭事項に関して、準備を周到に行う必要があります。
各々に生計を維持する収入及び資産の存在 は、熟年離婚の準備で欠かせない条件です。
熟年での離婚では後の自身の生活について冷静に考えておきましょう。
熟年離婚の準備で大事なのは財産分与
財産分与とは?
冒頭でも説明した通り、 財産分与 は熟年離婚の準備において重要です。
「 財産分与 」とは、 婚姻の関係の間に夫婦が協力をして築いてきた財産に関して、清算及び分配を行う事 を言います。
この定義からも分かるように、財産分与は 夫婦間に共有の財産があれば、必ず発生します 。
財産分与には以下の3種類が存在しています。
清算的財産分与
扶養的財産分与
慰謝料的財産分与
①清算的財産分与
夫婦が協力し共同で築いた財産を、各々の貢献度に対応して平等する形です。
一般にはこの形が適用されます。
②扶養的財産分与
後の生活の安定を目的として、一方が他方へと支払うものです。
一方の配偶者が専業主婦および専業主夫である場合、婚姻中の貢献度に応じて財産を分けるのみでは 離婚した後の生活がとりわけ厳しくなってしまう可能性 が存在します。
その際は一方の離婚した後の生活の安定を助ける 扶養的意味合い をもってして、 収入の多い方から収入の少ない方へ と配分を多くして分けます。
③慰謝料的財産分与
慰謝料といった名目で、離婚原因を作った側が他方へと支払うものです。
本来、 慰謝料と財産分与は別物 とされています。
しかし、一方が不倫をしたなどの原因から離婚に至ったにも関わらず、離婚原因を作った側が慰謝料の請求を拒んでたりする際は、 慰謝料的な意味合い をもってして、 原因を作った側から相手へより多くの財産を分配すること があります。
財産分与可能な請求期間は?
一般的には 離婚と同時に取り決めが行われます が、離婚時に取り決めをしなかった際には、離婚後であっても財産分与の請求が可能です。
離婚が成立してから2年以内 が請求期限です。
取り決めを行わなかった場合には、可能な限り早く手続きを進めて下さい。
財産分与の問題は、話し合いが長引く争点の代表はありますが、そこで面倒がらずに きちんと取り決めを行っておくことは重要です 。
財産分与の請求には 2年以内 です。
まずは離婚を優先し、財産分与に関してはまた後ほど、と考えてしまう人もいるでしょう。
しかし、成立した後、相手との 連絡が一切取れなくなり、職場や住む場所も変更されており行方も分からない のも少なくない事例です。
離婚を切り出してから財産分与の取り決めまでの期間が長くなればなるほど、 相手へ財産整理や財産処分の猶予を与える事に繋がります 。
共有財産の減少 は、財産分与として受け取れるはずだったお金の減少に繋がるため避けるべきでしょう。
財産分与の対象
財産分与の対象は、 夫婦が婚姻中に築いた一切の財産 となります。
これを「 共有財産 」と呼び、以下が主な事項です。
現金や預貯金(名義人は問われない)
有価証券や投資信託
不動産
家具・電化製品
自動車
金銭的価値が高い物
ゴルフ会員権など
保険料
退職金や年金
負債
熟年離婚の準備①お金関連
預けた貯金の配分
婚姻中に形成された預貯金 は、 夫婦で配分します 。
しかし、 相続や贈与 によって増えた 特有財産 は除かれるので注意が必要です。
また、配分割合に関しては、基本は夫婦で 半分ずつ とですが、夫婦で 自由に決めることが可能 です。
住宅と住宅ローンの所有
夫婦間に住宅すなわち持ち家がある場合、 どちら側がその住宅を所有するかという問題 は、準備を鑑みても重要です。
熟年離婚ですと、住宅にかかるローンの残りが僅かになっていたり、もしくは完了している事例も多く存在します。
そのため、 財産分与で住宅を得た側 は、離婚した後の 住居が確保 でき、 生活基盤の安定 もはかられます。
双方が実家へ戻れる場合には、 売却して現金化 をするのも一手です。
なお、ローンの支払いが残っていれば、その支払う方を決めておきましょう。
扶養的財産分与の扱い
毎月定期金の支払いを夫婦の一方が相手方に行う形です。
後の 生活を維持するだけの収入が得られない ことに加えて、財産分与対象の 財産も十分でない 場合に行われ、熟年離婚に多く見られる形です。
支払いの期間
終身にわたって支払い続けることも可能ではありますが、 老齢年金受給の時期まで とするなど、 給付期間を設ける 事も多いです。
退職金について
熟年離婚では定年退職まで残り僅かであるケースが多く、 退職金の支払い が見込まれれば、 退職金も財産分与の対象に含める ことが通常です。
財産分与の対象となる財産の中で退職金相当額の清算を済ませたり、 対象財産がない故に 退職金支給後に配分額が支払われるように取り決めを行う事もあります
保険料
任意保険 や 生命保険 、 学資保険 などの一切の保険は、婚姻中に加入していた場合、財産分与に関しては 名義を問わずに対象 となります。
なお、保険料について、 一方が婚姻前に支払っていた期間へ相当する解約返戻金は対象となりません 。
負債
子供の 教育ローン や 住宅・自動車のローン 、生活費のための 借金*:といった マイナスの財産**も分与の対象となります。
しかし、同じ借金であっても 浪費やギャンブルで一方が個人的に作ったもの であれば*_共有財産に含まれません_。
熟年離婚の準備②離婚慰謝料の扱い
金額自体、 50万~400万円 といった範囲が定められており、一般的には 200万~300万円 が目安です。
なお、注意点として、通常の慰謝料との違いが挙げられます。
例夫婦の一方へ 不貞行為の事実 があった場合、 不貞行為自体が不法行為 です。
その不貞行為が原因となった際には、通常の慰謝料の内訳には以下の二つが存在いします。
不貞行為の責任
離婚の原因を作った責任
しかし、離婚慰謝料を計算する実務では上記のような内訳は考えられず、 慰謝料全体と捉えられた上で金額条件が定められます 。
なお、実際に相手方が不貞行為を認めない限りは基本的に法的な証明が難しいため、事実を追求する際には注意が必要です。
熟年離婚の準備③家の扱い
家の扱いに関しては、その家が 賃貸なのか持ち家なのか によって扱いが異なってくる点が挙げられます。
ここでは、それぞれの注意点などについて紹介していきます。
婚姻中の生活を送っていた自宅が賃貸の時
離婚の財産分与の対象にはなりません 。
これまで夫の名義で借りていた家に夫が住み続けるのであれば問題はありませんが、今後妻が住み続けるという場合には 契約者の変更が必要となる ため、不動産業者や大家さんへ連絡を取ることは必要です。
大家さんによっては、新たな契約として 敷金や礼金などが請求される ようですので注意が必要です。
このような部分に関しては、不動産業者や大家さんなどと 現在の契約についても話し合いを持っておくこと が鍵となるでしょう。
婚姻中の生活を送っていた自宅が持ち家の時
財産分与の際に 家を手放して現金に変える 、家に住み続けたいという場合には、 住み続ける側が残りの住宅ローンなどを負担する 形となります。
家を手放して現金に変える場合にも、 住宅ローンは財産分与の対象 となりますが、 住み続ける側の方が大きな負担を負う ため、考慮が必要です。
自宅の扱いに関しては、一方が住み続けることを主張し、 それなりの対価を支払った上で住み続ける 多いです。
家の問題は、名義人や登記も含め、揉め事の種です。
冷静に話し合いの機会を持つようにしましょう 。
家賃収入に関して
自宅からの家賃収入がある場合は、少し難しい問題となります。
通常、 親から相続した家であれば、それは財産分与の対象にはなりません 。
しかし、その家から 家賃収入を得るための管理を妻が協力して行なっていた場合 などは、夫の特有財産のケースでも 財産分与の請求が認められることもあります 。
なお、夫婦で婚姻中に購入した投資用のマンションなどは一般的には 離婚するときに売却して現金に変えて配分します 。
しかし、手放すのが嫌という夫婦の総意の場合には、 家賃収入を毎月分ける方法 と マンションの時価総額同等の価値を現金で弁済する方法 があります。
しかし、家賃収入を分けていく場合には、収入は一度名義人へと振り込まれるため、 相手がお金を送ってこない事例も存在する ため注意が必要です。
熟年離婚の準備④年金分割
年金分割の対象
言葉の通り、年金を分割する制度である 年金分割制度 には対象が存在します。
この制度は、 厚生年金保険 及び共済年金の部分に限って、婚姻中の保険料納付実績を分割するものです。
そのため、国民の基礎年金、 国民年金 や、 厚生年金基金・国民年金基金 などに相当する部分は、この分割の対象にはなりません。
もちろん、婚姻以前の分に関しても反映されません。
年金分割の種類
年金分割には、以下の2つの種類が存在します。
合意分割
3号分割
合意分割
合意分割 とは、以下の条件に該当する場合、 当事者一方の請求によって婚姻中の厚生年金記録を当事者間で分割できる仕組み です
婚姻中の厚生年金記録がある
当事者双方の合意もしくは裁判手続きによって按分割合を定めた
請求期限(離婚した日の翌日から2年以内)を経過していない
3号分割
3号分割 とは、 平成20年5月1日以降 に離婚等をして、以下の条件に該当する場合、国民年金の3号被保険者だった人からの請求によって、 平成20年4月1日以降 の婚姻中の第3号被保険者期間での相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ、当事者間で分割が可能なのが3号分割です。
条件を纏めると以下の通りです。
婚姻中に平成20年4月1日以降の国民年金の厚生年金記録がある(第3号被保険者期間中)
請求期限(離婚した日の翌日から2年以内)を経過していない
年金分割の注意点
合意分割の条件に含まれている「 合意 」という言葉は、 調停調書や公正証書に記載されること を必要とし、 家事調停を申し立てるか 、 公証役場にて公正証書を作成する 行為が含まれます。
しかし、 3号分割では条件に含まれておらず、不要 です。
しかし、 平成20年3月以前 のものに関しては同様に 割合を決めなければならない 上、分割割合が決まれば 社会保険事務所へ申し立てを行う必要 もあります。
年金分割に関しては複雑なところも多くあり、困った場合には弁護士に相談するなどと言った判断も良いかもしれません。
熟年離婚の準備⑤親権
特に悩ましい事項として挙げられるのが、子供です。
親権に関しては子供の将来自体を左右する以上、準備の中でも特に重要です。
未成年者である子供を 監護・養育 して、その 財産の管理 をし、その子供の 代理人として法律行為をする権利・義務 が親権です。
法律上では以下の2つになります。
財産管理権
身上監護権
熟年離婚では子供が成長しており、問題とならない可能性も多いですが、まずは本人の意思も尊重した上で、親子双方で納得した形にして下さい。
協議離婚の場合、 話し合いによって夫婦どちらか一方を親権者と定めます 。
未成年者の子供 がいる場合では、 親権者を同時に決めなければ離婚もできません 。
親権は、財産分与など離婚時に取り決めるそのほかの要項と異なり、 親権の決定は離婚をすることができるかどうか 自体の問題に関わってきます。
そのこともあり、親権が決まらない場合には 離婚調停の申し立て を行い、 通常は調停の中で親権の話し合いを行います 。
親権者の決定が調停でも折り合いがつかない場合、 親権者指定の審判手続き に移行して 裁判所の判断 によって指定を行います。
一度決めた親権者を変更する場合は、 親権者変更の調停・審判もしくは監護権者変更の調停・審判を家庭裁判所 へと申し立て、新たな親権者を家庭裁判所で指定してもらいます。
この場合には、 子供の利益のために必要と認められる場合 に限り変更が可能です。
これは 特段の事情とされる物であり 、ハードルは高いと言えるでしょう。
子供の年齢が15歳以上である場合には、裁判所は 子供本人の意思 を聞くのが義務です。
熟年離婚のお金は慎重に
この記事では、熟年離婚の際の準備と題し、特にお金に関する内容を紹介してきました。
概要としては以下の通りです。
熟年離婚の準備前に考えて置くべき事
熟年離婚の準備で大事なのは財産分与
熟年離婚の準備①お金関連
熟年離婚の準備②離婚慰謝料の扱い
熟年離婚の準備③家の扱い
熟年離婚の準備④年金分割
熟年離婚の準備⑤親権
そも、離婚準備自体様々なものがありますが、熟年離婚となると、 熟年といった時期の特徴 も加わり、 考慮すべき事項も増加します 。
年金に関しては公的な制度という事もあり、分割の方法が複雑です。
その他、慰謝料に関しては揉め事の原因となりやすく、財産分与に関しても不平が残る結果となる事は多いにあり得ます。
離婚自体、負のイメージが付きまとう物であり、決断自体を悪く思う方も多いです。
しかし、人生の切れ目の一つという側面も持ち、新たな人生のステップへと歩むための1つの踏み台として捉える事もできます。
準備は入念に行った上で、双方納得できる形で一つの関係を終わらせるようにして下さい。