検視とは
葬儀会場
専門的な法医学の知識を持つ検察官やその代理人が医師の立会いのうえご遺体を検査して、犯罪性の有無を確認する刑事手続きのこと をいいます。
現実では執行専門官の人数は限られていて、検視を必要とするご遺体全てに対応できないこともあり、 一般の警察官が代行検視を行うことも多くあります。
テレビドラマでしか聞かないような検視が自分の身近に起こることとは思えないでしょう。
昨今、都心ではおよそ9割の人が病院で最期を迎えるといわれています。
病院での最期であれば、医師が死因を把握できるため検視は必要とされません。
しかし、残りの1割の人は自宅での突然なくなってしまったり、外出先で事故に遭ってしまったり、何らかの事件に巻き込まれてしまったりと、死因を特定するために検視が行われているのです。
近年、増加している孤独死についても、検視が必要となる例の一つです。
実は、身近なところでも、検視は行われているのです。
検死との違い
「検死」という言葉も目にしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、日本には検死という法律用語はありません。
検死がよく目にされるのは、アメリカのテレビドラマ、映画などでしょう。
ここでは「Autopsy」=「検死」と訳され、アメリカでの 「検視、検案、解剖」の3つの概念を包括したことばとして用いられています。
検案とは
「検案」とは、 医師が遺体を確認したうえで、死亡日時や時刻、状況、死因などを医学的・法律的な面から総合的にみることです。
検案して異状性が確認されなければ医師は死亡検案書を作成し、異状性が認められるときは検視を行います。
検視官とは
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検視官は警察官の一職種です。
検視官になるには、警察官になる必要があります。
その後、概ね10年以上刑事としての経験をつみ、警察大学校で専門知識を習得し、必要なスキルやノウハウを身に着けていきます。
この仕事は、高い専門性が要求されるために、豊富な知識と経験を積んだ方がなることを望まれるといえます。
人がなくなったときには、その事件性の有無を判断するため現場に足を運んで調査を行います。
それ以外の時には、過去の資料からさまざまな事例を頭に入れ、日々勉強し、判断力を磨いています。
検視官の所属は、各都道府県警察本部の刑事部です。
数名規模のチームを組むこともあれば、県警本部によっては1人しかいないこともあり、また、24時間365日スタンバイの必要もあり、激務といえます。
犯罪を見逃さないように、警察が取り扱う全ての遺体を検視できるのが望ましいですが、 自然死以外で死亡する人が年に16万人以上いるのに対し、検視官は、全国でも300人前後しいません。
深刻な人手不足が指摘されているのが現状です。
検視を行う場合
葬儀
検視では、主に次のような項目が調べられます。
調べる項目
個人情報(氏名・年齢・性別・住居)
位置、姿勢、傷跡、変異や特徴
服装や所持品、遺留品
周囲の状況(地形も含む)
死亡推定時期(年月日)と場所
死因(犯罪性があるかどうか)
このほかにも、その状況によって、自殺の疑いがあればその方法、犯罪の可能性があればその凶器、感染症や中毒があるかなども調べます。
特定の病気で入院中になくなったとき、検視は行われません。
また、在宅療養中などになくなっても、診察により死因が持病によるものだと判断できれば検視はしません。
一方、次のようなときは検視が行われます。
項目 内容
① 自宅での自然死(老衰等)で主治医がいない
② 病院での死亡でも、持病によるものではない
③ 法令指定の感染症や中毒死
④ 事故死や災害による
⑤ 自殺
⑥ 犯罪によるもの、またはその疑い
⑦ 独り暮らし等で身元不明
①自宅での自然死(老衰等)で主治医がいない
特に在宅療養はしておらず、突然倒れてなくなってしまった場合、 たとえそれが病死や自然死、老衰によるものだったとしても必要です。
②病院での死亡でも、原因が持病によるものではない
病院内で死亡したとしても、 持病が死因ではないときは医師が警察に連絡します。
③法令指定の感染症や中毒死の疑いがある
法定伝染病または指定感染症によりなくなった場合、 それ以上感染を拡大させないため。
中毒の場合はその症状や毒物の種類、中毒するに至った経緯などを確認します。
④事故死や災害によりなくなったとき
交通事故や溺水、火災や感電など不慮の事故や災害で死亡した場合。
⑤自殺のとき
自殺の疑いがある死体は、 原因やその方法、教唆者やほう助者がいないかどうか、遺書があるときはその真偽など確かめます。
⑥殺人・過失致死などの犯罪によるもの、またはその疑いがあるとき
加害者に殺意があったかどうに関わらず、 他人によって加えられた傷害によってなくなった場合は、加害の手段方法を問わず行われます。
⑦独り暮らし等で身元不明なとき
孤独死や身元不明の場合も必須です。
身元が分かるまでに時間を要します。
自宅でなくなった場合でも検視を行う
葬儀 花
家族が自宅でなくなると特に慌ててしまうかもしれませんが、以下を参考にして対応してください。
主治医がいる
主治医がいる場合は、最後に診察してからどのくらいの時間がたっているかが重要です。
もし、最後の診察を受けてから24時間以内であれば、 自宅でなくなったとしても、生前療養していた疾患に関連していれば検死は不要です。
しかし、診察後24時間経過している場合は、原因によって処置が変わります。
かかりつけ医・主治医の診察を受け結果、死因が生前療養していた疾患によるとなれば行いません。
そうでない場合、医師が警察に届け出たうえ、検視する運びとなります。
主治医がいない
かかりつけ医・主治医がおらず、 治療を行っていない状態での病死、突然死など、生前病院にかかっていないときは、検視が必要です。
検視で事件性があると判断されたとき
時間
検視のあと、 犯罪の可能性があったご遺体は司法解剖されます。
解剖により、詳細な死因や死後の経過時間の特定、損傷の確認をおこなうことで事件の真相解明につなげるためです。
これは、大学の法医学教室で高度な専門知識のある法医学者が執刀します。
司法解剖は、遺族の了承をとって実施ことが多いものの、遺族がのぞまないとしても、裁判所の許可があれば強制的に実施できます。
承諾解剖と行政解剖
また、 犯罪性はなくても、死因究明のために行われる、行政解剖があります。
監察医制度がある地域では、監察医によって死体検案が行われ、必要な場合行政解剖が行われます。
この場合、遺族の承諾なしに解剖できます。
しかし、監察医制度があるのは東京23区や大阪市、横浜市、神戸市および名古屋市という限られた地域だけです。
そのため、 それ以外の多くの地域においては、事件性のない遺体の死因を明らかにしたい場合、遺族に承諾のもと法医学者による解剖を行います。
これを承諾解剖といいます。
検視は拒否できない
×
遺族は検視を拒否できません。
刑事訴訟法において、異状死やその疑いのある遺体は検視を行うと規定されているからです。
さらに家族の事情聴取、指紋採取なども認められています。
事情聴取では、死亡時の状況や既往歴などについて、できるだけ正確に伝えましょう。
また、遺体は現状のままとしておくことが大切です。
動かしてしまったり、暑くて腐敗を心配しドライアイスなどで冷やすことのないよう注意してください。
検視の費用
金額
ここで費用とその負担者を見ていきましょう。
費用
かかる費用は、市区町村によってそれぞれ独自の設定があり共通した基準というものはありません。
以下はかかる費用の一例です。
例 費用
東京23区 無料
横浜市、川崎市 数万円~10万円以上
負担者
費用負担者についても市区町村によってさまざまです。
費用がどのくらいかかるのかを知りたいときは管轄の警察に問い合わせてみてください。
例 費用
東京23区 都が負担
横浜市、川崎市 遺族が負担
また、このほかにも下記のような費用が発生する場合もあります。
項目 費用
① 移送費
② 保管費
③ 納体袋
④ 書類作成費
これらの費用についても負担者は市区町村により異なっています。
検視後の引きとり方法
方法
検視がおわると、ようやくご遺体は家族の元へ帰ります。
警察から引きとりの連絡があったら早急に引きとりにいきましょう。
葬儀社が決まっていないときは、警察が葬儀社を紹介してくれます。
しかし、そのまま搬送や葬儀を依頼すると、相場よりも高額になってしまうことが多いのでご注意ください。
故人やご遺族が希望している形での葬儀を行いたい場合、 引きとりまでにご自身で葬儀社を選び、葬儀社へご遺体の引きとりをお願いしたり、葬儀内容を決めて見積もりを取っておくと良いでしょう。
検視にかかる日数
犯罪の疑いがないときは即日か翌日までには終了します。
一方、解剖となると遺体の搬送をふくめて数日以上かかってしまいます。
さらに、遺体の状態によっては、DNA鑑定や歯型や歯の治療跡などで身元を特定する必要がでてきます。
この場合は、 鑑定結果がわかるまで1〜2週間ほど、長ければ1カ月かかります。
検視の結果は見れるの?
疑問
大切な人の死について、知りたいという気持ちは誰にでもあります。
では、検視の結果を知る手立てはあるのでしょうか。
検視が行われると、「検視調書」が作成されます。
詳しい死因や、事件性の有無など、詳細が記載されていますが、 この調書は原則非公開となっています。
プライバシーの観点からも、簡単には見ることができないのです。
検視を行った際は死体検案書を発行する
書く
検視のあとには、死体検案書という書類が作成されます。
これは、病院等で発行される発行および交付される死亡診断書に代わるものです。
戸籍抹消と埋葬・火葬のために死亡届と同時に役場へ提出します。
この書類は役所に提出したあと原本が返却されることはありません。
しかし、生命保険の受け取りのために保険会社へ提出するなど、死後の手続き等でコピーが役立つことがありますので、5~10枚ほどコピーして手元に残しておくと便利です。
項目 主な死後の手続き
① 生命保険の受取り
② 銀行口座の名義変更
③ 年金受給停止
④ 遺族年金請求
⑤ 埋葬料請求
⑥ 戸籍の変更
⑦ 扶養の変更
⑧ 不動産の名義変更
⑨ 車、バイクの名義変更
⑩ 公共料金の支払い
上記はあくまでも一例です。
コピーでは対応できないこともありますので、手続きする際は事前に必要なものを確認してください。
もしも「検視」を受けることになっても慌てないために
病気で亡くなる方も多い一方、突然亡くなったり事故で亡くなる方もいらっしゃいます。
近年は高齢化や核家族化が進むとともに孤独死も増えています。
検視は意外と身近に行われています。
大切な人を亡くした時、検視となると遺族にとって衝撃的なことです。
しかし、 「何が原因で亡くなったのか」を明らかにすることは、故人にも遺族にも大切なことです。
警察に協力しながらも、落ち着かない日々を過ごすことになるでしょう。
その内容や種類、流れや費用を理解しておくことは、「もしも」の時の心構えになるでしょう。
突然の出来事にも慌てず、故人とお別れできるように知識として覚えておいてください。