灯篭・灯籠とは
吊り灯籠
灯篭・灯籠とは、道を照らすための照明器具のことをさし、現在で言うところの街灯にあたります。
昔は電気がなかったため、夜になって明かりを灯す際には、「 行橙 」や「 提灯 」「 灯篭・灯籠 」などの、中にろうそくを立てて明るくさせる照明機器が用いられていました。
「 行橙 」とは主に室内を照らすもので、持ち運びができるものもありますが、部屋の主照明として人の近くに置かれるものです。
構造としては、和紙が周りに貼られており、中の小皿に油を入れて、木綿などの灯心に点火するというものです。
「 提灯 」は、先ほど説明した「 行橙 」を屋外で使えるようにと改良されたもので、軽く、折りたたみも可能になっており、現在で言うところの懐中電灯にあたります。
現在の灯篭
昔は照明機器が少なかったため、お参りに来た人の道案内の目的で設置されていましたが、現在ではお墓の景観のために設置されていることも多くなっています。
庭園や水辺で使用されるものは「 雪見灯篭・石灯籠 」と呼ばれ、照明機器としての機能性よりも、風情を楽しむものとして日本庭園に不可欠なものとなりました。
一方、お墓に設置されているものは「 石灯篭・石灯籠 」と呼ばれ、仏像に清浄な灯りを献じる目的で配置されています。
これは必ずしも対である必要はなく、一基のみというところも存在します。
灯篭・灯籠の種類
灯籠流し
一般的に「灯篭・灯籠」と言う際には、日本庭園や寺社の屋外に配置されている石や金属で作られた丈夫な固定式のものをさすことがほとんどです。
ですが灯篭・灯籠には様々な種類があり、今説明したものの他に、神棚などで用いられる木枠と紙で囲いをした小型の灯篭・灯籠や、金属製の吊り下げ式のものも存在します。
中でも石灯篭は、さらに4種類に分けることが出来ます。
春日型
雪見型
岬灯篭
織部灯篭
春日型
奈良の春日大社で使われていたことが名前の由来とされており、最も馴染みのある形の灯篭・灯籠です。
春日大社にちなんで火袋には鹿が彫られています。
寺院に多くみられ、竿と呼ばれる足の部分が長くて、高い位置に火袋が存在し、背が高く実用性のあるものです。
春日形
雪見型
傘が大きくて風情があり、日本庭園によく見られる灯篭・灯籠です。
水面を照らすために、池の側などの水際に設置されることが多くなっています。
背が低く、足が三本、丸や六角形の傘がついた可愛らしいものです。
六角雪見形
岬灯篭
雪見型から足の部分を無くしたもので、池の辺りなどに灯台を模倣して造られます。
足がないぶん、水辺にのっかっているように見えるものです。
岬形
織部灯篭
茶人、古田織部が好んだことが名前の由来となっています。
夜のお茶会のために作られたのが起源で、背は高いものの、地味な印象の、シンプルな形のものです。
以上の4種類の他にも 天下茶屋灯篭 と呼ばれる、豊臣秀吉が立ち寄った茶屋に似せて作られたとされるものなども存在し、非常に多様です。
織部形
灯篭・灯籠が神社にある理由
神社 灯篭・灯籠
奈良時代に僧侶が持ち帰ったことが起源とされている灯篭・灯籠ですが、現在では神社にも飾られるようになり、神道では検灯用として用いられています。
寺院で使われていた灯篭・灯籠が神社でも使われるようになった理由及び意味は、大きく分けて2つあります。
起源となる仏教
仏教における供養の基本は「五供(ごくう)」と呼ばれる、「花」「香」「水」「食」「火」とされています。
「火」には、灯すことによる供養の意味が込められています。
お線香に火をつけるためのロウソクと思われがちですが、実はロウソクに火を灯すこと自体にも重要な意味があります。
仏教において灯とは、闇を照らす智慧の光とされており、寺院の境内に火を灯すことで浄土を再現するという役割も担っていました。
灯篭・灯籠は、実際に火を灯さずとも、そこに建てるだけで光をささげていることになるようです。
神仏習合という考え
日本では元々、神道や氏神様などが信仰されていましたが、後に仏教が入ってくることによって、仏教と神道が混ざり合うことになります。
これが、神仏習合や神仏混淆と呼ばれるもので、神と仏を同じものとする考え方になります。
そして、このような平和な考え方が、明治維新までの1000年以上続きました。
その間に、神仏習合の考え方に則って、寺院に神をお祀りしたり、神社に神宮寺、寺院に鎮守社が建てられるなどしたのです。
仏教は先ほども述べた通り、灯りが供養の基本とされていますが、対して神道は暗闇の神秘を大切にする宗教であったものの、神仏習合の風潮に併せて、寺院に建てられていた灯篭・灯籠が神社にも建てられていきました。
さらにその後になると、神仏分離政策が行われましたが、灯篭・灯籠は神道に残り続けた、というわけです。
灯篭・灯籠流し
灯篭・灯籠流し
灯篭・灯籠流しとは、死者の魂を弔って、火を入れた灯篭・灯籠を川や海などに流す日本の伝統行事のことを言います。
一般的に、お盆の行事である送り火の一種として、夏祭りや花火大会などと合同で行われることが多くなっています。
灯篭流しを行わない地域も存在し、行う際にも、お盆の時期の解釈によって行うタイミングが異なってくるため、全国で一斉に行われるというわけではありません。
実際、日本国内だけでも、様々な土地で様々に灯篭流しが行われています。
ここでは、日本各地の灯篭流しをいくつか紹介していきます。
長崎の「精霊流し・万燈籠流し」
広島の「8月6日 とうろう流し」
青森の「弘前城雪燈籠まつり」
東京の「隅田川 とうろう流し」
長崎の「精霊流し・万燈籠流し」
基本情報
住所
長崎県佐世保市宮地町
期間
8月15日 ※毎年同日
※精霊流し:夕方~21:00頃/万灯籠流し:19:00~22:00
開催地
精霊流し:名切グラウンド、他
万灯籠流し:アルバカーキ橋から平瀬橋付近にかけて
詳細
精霊船は山車を連想させる華美なもので、祭りと誤解されることもありますが、あくまでも故人を追悼する仏教の行事です。
市内の中心を流れる佐世保川では、万灯籠流しが行われます。佐世保川に浮かぶ万灯籠の明かりが川面に映えて、精霊流しとは違った趣があります。
広島の「8月6日 とうろう流し」
基本情報
住所
広島県広島市中区本川町1丁目
期間
8月6日 ※毎年同日
18:00〜21:00
開催地
元安川 原爆ドーム~元安橋付近
詳細
毎年8月6日に原爆ドーム前を流れる元安川にとうろうを流して、 原爆、戦災、一般死没者のご冥福を祈るとともに、広く世界へ 平和のメッセージを発信し、恒久平和を祈願する行事です。
青森の「弘前城雪燈籠まつり」
基本情報
住所
青森県弘前市下白銀町
期間
2019年2月8日(金)~2月11日(月祝)
16:30(日没)~21:00
開催地
弘前公園(国指定史跡「弘前城跡」)
詳細
200基に及ぶ大小様々な燈籠や雪像が公園内に配置されます。 灯りがともされたミニカマクラ群や雪像は照明に浮かぶ弘前城とあいまって幽玄の世界へ誘います。
東京の「隅田川 とうろう流し」
基本情報
住所
東京都台東区浅草7丁目1
期間
8月中旬
18:30~20:15
開催地
隅田川親水テラス 吾妻橋両岸
詳細
静寂な川面を流れていく「とうろう」の美しさが、水辺空間の憩いを演出します。吾妻橋近くの隅田公園親水テラスから、地元の小学生も参加し、想いを込めてとうろうを隅田川に流します。
とうろうは有料です。
灯篭・灯籠飛ばし
ランタンフェスティバル
灯篭・灯籠飛ばしとは、灯篭・灯籠流し同様、死者の魂を弔って、火を入れた灯篭・灯籠を空に放つ行事のことを言います。
灯篭・灯籠飛ばしは、ランタン飛ばしとも呼ばれ、その行事自体はランタンフェスティバルと呼ばれることもあります。
『塔の上のラプンツェル』での印象的なシーン、ラプンツェルの誕生日に無数のランタンを飛ばす場面というと、分かる方が多いかもしれません。
ランタンフェスティバルは日本国内のみならず、世界各国で行われています。
中でも有名なものをいくつか紹介します。
新潟の「つなん雪まつり スカイランタン」
秋田県の「上桧木内の紙風船上げ」
タイの「コムローイ祭り」
新潟の「つなん雪まつり スカイランタン」
基本情報
住所
新潟県中魚郡津南町秋成12300
期間
3月上旬
※SNOWWAVE:夕方~10:15/スカイランタン:19:40~
開催地
ニュー・グリーンピア津南特設会場
詳細
新潟県最南端、信越県境に位置する津南町は、日本有数の豪雪地帯。厳しい寒さの中でもたくさんの雪を楽しむ遊びの空間創造と、雪本来の美しさをより一層際立たせる巧みな演出を展開し、心の芯まで温まるイベントを目指します。
このつなん雪まつりは、国内最大規模を誇るスノーボードストレートジャンプ大会SNOWWAVEと、フィナーレを飾るスカイランタンの2大イベントを軸に展開します。
秋田県の「上桧木内の紙風船上げ」
基本情報
住所
秋田県仙北市西木町上桧木内字大地田
期間
2月10日※毎年同日
18:00〜20:30
開催地
※毎年同日
詳細
伝説では、江戸時代の科学者である平賀源内が、銅山の技術指導に訪れた際に、熱気球の原理を応用した遊びとして伝えたと言われています。
「無病息災」「五穀豊穣」や「家内安全」など、その年への願いを込めて、武者絵や美人画が描かれた100個あまりの灯火をつけた巨大な紙風船が、きらめく星々のごとく真冬の夜空に舞う年中行事です。
タイの「コムローイ祭り」
基本情報
住所
メージョー大学:Bang Khen Alley, Tambon Nong Han, Amphoe San Sai, Chang Wat Chiang Mai 50290
期間
11月の満月の日
開催地
チェンマイ郊外メージョー大学近くの寺院
詳細
年に1度タイのチェンマイで開催される仏教のお祭りで、メインイベントでは、ブッタに敬意を込めて「コムローイ」と呼ばれる熱気球に火を灯し、一斉に空に放ちます。
息を飲むほどに美しい幻想的な光景は、SNSやメディアで話題となり、日本でも注目度が高まっています。
墓前灯篭(灯籠)
墓前灯篭・灯籠
墓前灯篭(灯籠)とは、灯籠の中でも墓前に建てられたものをさし、2つの役割を担っています。
1つ目は、あの世でご先祖様や故人が道に迷ってしまわないようにするための道灯りとして、2つ目は暗闇を照らすことで邪気を払うため、です。
ですが以上の2点だけでなく、墓前灯篭(灯籠)は故人を神仏の元へ導くとも考えられていたり、電灯や照明の少なかった昔に、お墓参りに来た人が迷わないようにするための目印としても用いられて来ました。
近年では、今挙げたような意味合いは薄れ、お墓の景観のため見目重視で建てられることが多くなってきました。
一般的には一対で建てられますが、一基のみで建てられる場合もあり、そのようなケースでは基本的に右側に建てられます。
石灯篭(灯籠)
灯篭・灯籠
前項でも紹介した通り、石灯篭(灯籠)には春日灯籠・雪見灯籠・岬灯籠・織部灯籠を筆頭とした、様々な種類が存在します。
そもそも石灯篭(灯籠)とは何かというと、その名の通り石でできた灯籠のことをさしします。
近年ではネット販売もされていて、中国製のものであれば1万円程度とかなり安価なものも存在します。
ですが、石灯篭(灯籠)は、苔が生えて情緒あふれるような状態になってこそ価値が出るとされているため、ネットでの購入はあまりオススメできません。
伝統工芸士の作る石灯篭(灯籠)は、毎日水をかけながら少しずつ風化させていき、風情を出しています。
現在へと繋がる灯篭(灯籠)
近年では、一種の景観としてのデザインに見なされてしまう灯篭(灯籠)にも、過去から現在へ伝わるまでの様々な歴史が存在します。
それを知った上で、改めて灯篭(灯籠)を見てみると、今までとは少し違った気持ちになれるかもしれません。
また、灯篭(灯籠)流しや灯篭(灯籠)飛ばしはとても見目美しい行事となっています。
日本の伝統に触れるつもりで1度参加してみてはいかがでしょうか。