親が亡くなったとき、長男として「何から手をつけるべきか」「相続はどうすればいいのか」と悩む方も多いでしょう。親が亡くなったら死亡届の提出や葬儀の準備など、やるべきことが多くあります。
親が亡くなった直後にやるべきこと
親が亡くなったとき、まずやるべきなのが「死亡届の提出」と「葬儀の準備」です。親が亡くなって悲しむ気持ちはあるかと思いますが、法律上の手続きや周囲への連絡はすぐに行う必要があります。
まずは、やるべきことについて詳しくみていきましょう。
死亡届の提出と葬儀の準備
死亡届は医師による死亡診断書とともに、死亡から7日以内に市区町村の役所に提出することが戸籍法にて定められています。
死亡届の提出が完了しなければ、火葬許可証が発行されず、葬儀や火葬を進められません。
親族や親戚の動揺を抑えながらも、適切な判断力が求められます。
また、葬儀社への連絡、会場の手配、親族・知人への訃報連絡、喪服・供花の準備など、数日以内に多くの準備も必要です。信頼できる葬儀社を早めに選定しておくとよいでしょう。
喪主は長男が務めるべきか?
喪主に関して法的な定義はありませんが、慣習的に長男が務めることが多い傾向です。
喪主は葬儀全体の責任者となるため、葬儀社との打ち合わせや会葬者への挨拶、宗教者とのやりとりや香典管理など幅広い役割を担います。
喪主を務めることは大きな責任ではありますが、無理に1人で背負うものでもありません。事前に家族間で話し合って決めることで、精神的な負担を軽減できます。
葬儀費用は誰が負担するのか
葬儀費用は基本的に故人の遺産から支払っても問題ありません。
ただし、相続手続きが完了するまで遺産にアクセスできないこともあるため、喪主や家族が一時的に立て替えるケースも珍しくありません。
平均的な葬儀費用は120万前後とされており、事前の備えや保険の活用も検討すべきです。精算時のトラブルを避けるためにも、誰がどのくらい負担するか、葬儀後にしっかり話し合いを行いましょう。
長男と相続の基本ルール
中には、相続に関してどう考えるのがよいか分からない長男の方もいるでしょう。ここからは、相続の基本的なルールに関して詳しく解説していきます。
長男だからといって優遇されるわけではない
かつては「家督相続」で長男がすべてを受け継ぐ時代がありました。ただし、現在では民法第900条によりすべての子どもに平等な相続権があることが定められています。
つまり、長男でも他の兄弟と同様の扱いを受けるということです。長男だからといって特別な優遇措置はないため、親や兄弟姉妹との事前の共有をしておきましょう。
相続の順位と割合(法定相続分)
長男だから優遇措置はないとしても、相続の順位はあるのか気になる方もいるでしょう。一般的な相続の順位は以下の通りです。
・ 第1順位:配偶者と子ども
・ 第2順位:故人の両親
・ 第3順位:故人の兄弟姉妹
配偶者は常に相続人となり、子どもとともに財産を分け合います。たとえば、配偶者と子ども2人の場合、配偶者1/2・子ども各1/4ずつとなります。
また、基本的には法定相続分に従いますが、遺言や協議によって異なる分け方も可能です。
親の遺言書がある場合とない場合の違い
故人からの遺言書が残されている場合、法定相続分よりも遺言の内容が優先されます。
ただし、すべての法定相続人には最低限の権利「遺留分」が保障されており、完全に無視することはできない旨が民法第1046条に記載されています。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、特にトラブル回避に有効なのが「公正証書遺言」です。
長男が直面しやすい相続トラブル
親が亡くなった後、長男とほかの兄弟間で起きやすい相続のトラブルとして、以下が挙げられます。
・ 何もしない長男とほかの兄弟との争い
・ 長男が遺産を独り占めするケース
・ 長男の嫁に相続権はあるのかどうか
・ 長男が先に亡くなった場合の相続はどうなるのか
ここでは、それぞれの内容について解説します。先に把握し、あらかじめトラブルが生じるのを防ぎましょう。
何もしない長男とほかの兄弟との争い
1つ目のトラブルは、何もしない長男とほかの兄弟との争いです。相続の際、「長男なのに動いてくれない」「連絡がこない」といった不満が兄弟間で噴出する可能性があります。
特に喪主や相続代表のような立場を期待されている場合、役割があいまいだと誤解や不信感を招きやすくなります。
相続に関する情報や状況をこまめに共有し、誠実な対応を取って信頼関係を保つことが大切です。
長男が遺産を独り占めするケース
2つ目のトラブルは、実家の土地や貯金を「自分が面倒を見てきたから」と長男が一方的に確保しようとするケースです。
これに対して他の相続人が反発し、調停・裁判に発展することもあるほど、大きなトラブルにつながります。
以下は、令和4年度の家庭裁判所における家事調停事件の新受事件数の事件別の構成比をまとめたものです。
出典:最高裁判所|令和4年 司法統計年報概要版 3家事編
画像をみると、遺産分割関連の割合は11.6%であることから遺産分割事件は14,000件以上にのぼっていることが分かります。このことからも、非常に重要度の高い問題といえるでしょう。
長男の嫁に相続権はあるのかどうか
結論から申し上げますと、長男の妻には相続権はありません。
ただし、長年にわたり介護や看病を担っていた場合は「特別寄与料」として、相続人に対して金銭の請求が可能となるケースもあると民法第1050条で定められています。
長男が先に亡くなった場合の相続はどうなるのか
長男が親より先に亡くなっていた場合、その子(孫)が代襲相続人となります。代襲相続は故人の血縁関係に基づいて行われ、相続順位や割合はそのまま引き継がれます。
長男が先に亡くなっている場合でも落ち着いて対処することが大切です。
遺産相続の具体的な手続き
ここまで、親が亡くなった後に長男がすべきことやよくあるトラブルについてご紹介しました。ここからは、遺産相続の具体的な手続きを解説します。
遺産分割協議の進め方
遺産をどのように分けるかは、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって決めましょう。ここまで解説した通り、話し合いが不十分なまま進めることでトラブルに発展するためです。
話し合いがまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の署名・押印を行います。この書類が金融機関での手続きや不動産登記に必要となるため、必ず正確に作成してください。
遺留分侵害額請求の考え方
遺言によって極端に遺産配分が偏っていた場合、法定相続人は「遺留分侵害額請求」を通じて最低限の取り分を主張できます。
原則として、相続開始を知ってから1年以内に請求する必要があります。
相続税はどのくらいかかる?
相続税には「基礎控除」が設けられており、 3,000万円+600万円×法定相続人の数 で計算されます。
たとえば相続人が3人の場合、4,800万円までは非課税となり、それを超える部分に対して段階的に課税されます。
相続で揉めないために長男ができること
親が亡くなった後、相続関連で揉めないために長男ができることは主に以下の通りです。
・ 遺言書を事前に作成してもらう
・ 家族会議を開いて早めに相続を話し合う
・ 専門家(弁護士・税理士)に相談する
1. 遺言書を事前に作成してもらう
最も確実なトラブル回避策は、親が元気なうちに公正証書遺言を作成してもらうことです。遺言書を作成してもらい、それに従って相続を進めればトラブルは回避できます。
遺言書の作成には2名以上の証人が必要です。公証役場で正式に記録されるため、偽造や紛失のリスクも低減されます。
2. 家族会議を開いて早めに相続を話し合う
相続はデリケートなテーマであるがゆえに避けられがちです。しかし、突然の出来事で家族が混乱しないよう、定期的に家族会議を開いて意向や希望を共有しておくことが大切です。
実際、話し合いが不十分であったからこそ、遺産分割での事件が多く発生しています。十分に話し合って全員が納得できるようすり合わせしてください。
3. 専門家(弁護士・税理士)に相談する
相続は法律・税金・登記など複数の知識が求められる分野です。初期段階から専門家に相談することで、手続きミスやトラブルの予防につながります。
また、自治体や法テラスなどで無料相談を受けることも可能です。 色々な方法で専門家に相談できるため、自分たちで決めかねる場合は頼ってみるのもよいでしょう。
まとめ
親が亡くなった後は、悲しみの中でも冷静に手続きを進める必要があります。
長男として責任感を持って対応しながらも、兄弟姉妹との公平な相続を意識することが大切です。
生前の準備や家族とのコミュニケーション、専門家の活用を通じて、後悔のない相続を目指しましょう。立場にとらわれすぎず、協調と誠実な対応が最も大切な要素です。