高齢者やそのご家族にとって、財産の相続は大きな関心事ですよね。特に、亡くなる前に名義変更を行うべきか、相続や生前贈与のどちらが有利かといった点は、残される家族のためにもよく考えておきたいポイントです。
本記事では、亡くなる前に名義変更を行うべき理由や、そのメリット・デメリット、具体的な手続き方法について詳しく解説します。大切な家族のために、今すぐ知っておきたい名義変更のポイントを確認しましょう。
亡くなる前に名義変更をするメリット・デメリット
亡くなる前に相続財産の名義変更を行うことで、主に相続人の手間やトラブルを減らすメリットがあります。
例えば、例えば、銀行口座は凍結され、相続人が正式な手続きを行わないと引き出せません。不動産の登記変更には相続人全員の同意が必要になる場合もあり、手続きが長引くこともあります。
事前に名義変更しておけば、こうした負担を軽減できます。
ただし、税負担で考えると、日本の平均的な世帯では「相続の方が税金負担が少なくなるケースが多い」ため、手間と税負担、どちらをとるかを考え、個別に判断したほうがいいでしょう。
そもそも亡くなる前の名義変更とは?
亡くなる前に行う名義変更とは、財産を所有している人が生きている間に、その財産の名義を変更することを指します。
これは「生前贈与」とも呼ばれ、相続とは異なる方法で財産を渡すことが可能になります。
亡くなる前の名義変更と生前贈与の違い
名義変更と生前贈与はほぼ同義で扱われますが、以下のような違いがあります。
【名義変更】
定義:所有者を変更すること
税金:条件により贈与税が発生する
非課税枠:なし
【生前贈与】
定義:生前に財産を無償で渡すこと
税金:年間110万円を超える贈与は贈与税の対象となる
非課税枠:年間110万円まで非課税
名義変更をしない場合の手続きの違い
名義変更をしないで亡くなった場合、基本的には相続人全員で『遺産分割協議』を行い、必要な手続きを進める必要があります。
不動産の相続では登記変更や場合によって遺産分割協議書の作成が必要になり、手間がかかります。
子どもや孫、きょうだいなど、相続人が遠方の場合は、話し合いの場を設けること自体が、かなりの手間になると予想されます。
亡くなる前に名義変更したほうがよい財産5つ
以下の財産は、生前に名義変更をしておくことで、相続時の手間を減らし、親族間のトラブルを未然に防ぐことができます。
預貯金(銀行)|理由:凍結されるため
人が亡くなると、その人の銀行口座は凍結され、相続手続きが完了するまで引き出しができなくなります。
葬儀費用や生活費の確保のためにお金が必要なのに引き出しができずに困る状況は、よくあるトラブルです。
そのため、銀行口座は生前に名義を変更するか、家族の口座へ分散するなどの対策をおすすめします。
不動産(家・土地等)|理由:遺産分割のトラブル防止のため
不動産は評価額が変動しやすく、また相続人間での分割が難しいため、相続で揉める原因になります。
生前に贈与することで、相続時のトラブルを避け、相続手続きの手間を減らせます。
車|理由:手続き負担軽減のため
車の名義変更は相続人が手続きを行う必要があり、負担がかかります。売却も、名義変更後でなければ行えません。
生前に名義変更を省略すれば、相続時の手続きを簡素化でき、スムーズに引き継ぐことが可能です。
有価証券(株式等)|理由:価格変動による税負担を減らすため
株式などの有価証券は価格変動があり、相続時に評価額が上がると相続税負担が増える可能性があります。
値上がり前に生前贈与、あるいは現金化して贈与することで、名義変更の手間を減らし相続人の税負担を軽減できる可能性があります。
生命保険|理由:遺産分割で揉める可能性を防ぐため
生命保険金は、原則として指定された個人が受けるため遺産分割の対象にはなりませんが、分割ができないために親族間で揉める原因になり得ます。
そのため、心配な場合は受取人の見直しをしておくといいでしょう。受取人を複数人にする設定も可能です。
亡くなる前の名義変更による税金への影響
生前に名義変更や生前贈与を済ませておくと、相続手続きを簡略化できますが、生前贈与と相続では、適用される税金やその負担が異なる点に注意が必要です。
以下に、主な税金とその違いをまとめました。
相続税とは
相続税は、相続の総資産額(お金のほか、不動産や車なども含む)に対して課せられる税金です。
亡くなった時点の財産額に応じて相続税が課税されます。
ただし、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の『基礎控除』があるため、基礎控除の範囲内であれば相続税はかかりません。
贈与税とは
相続にかかわらず、個人から個人へ財産の贈与があった場合に課せられる税金です。年間110万円までの贈与は非課税ですが、それを超えると贈与税が課税されます。
贈与した翌年の2月1日~3月15日までに確定申告にて贈与額の申告が必要です。
注意点:
年計算で贈与税を収める方法を暦年贈与と呼びます。
暦年贈与の場合は基礎控除の110万円以内ならば税務署への申告義務はありません。
相続税と贈与税の違い
相続の際は、相続する総財産額から相続税が引かれることになりますが、『基礎控除』と呼ばれる金額までは相続税はかかりません。
基礎控除額は基本的に以下のような計算式で計算されますので、相続人1人の場合で、総資産額が3,600万円以下であれば、税金を払う必要がないということです。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
一方、生前贈与の場合には、贈与額が年間110万円を越える場合に贈与税がかかります。
一見、生前贈与のほうが税負担が増えるようにみえますが、『相続時精算課税』の仕組みを使うことで贈与税の支払いを抑えることもできます。
相続時精算課税とは
「相続時精算課税制度」とは、生前贈与での税負担を軽くするための仕組みです。
2,500万円まで贈与税の支払いなしで贈与ができ、相続発生時に残りの財産と合算して相続税として計算できます。
相続財産が基礎控除の範囲内の人は、相続時精算の仕組みを選択することで支払う税金を減らせる可能性があります。
注意点:
贈与額が多い場合に贈与税を減らせる点でメリットがありますが、必ず税務署に申告する必要があります。
亡くなる前に名義変更をする際の注意点
相続手続きを簡略化するという点では名義変更はおすすめですが、以下の点には注意しておくといいでしょう。
生前贈与は税負担が増える可能性がある
高額な財産を一括で贈与すると贈与税の負担が大きくなります。年間110万円の基礎控除を活用しながら、少額ずつ贈与するのもひとつです。
また、不動産の名義変更など多額の贈与が発生する場合は、『相続時精算課税』の仕組みの活用も検討しましょう。
亡くなる7年前の贈与は相続税の対象
駆け込み贈与を防止するため、2024年1月1日以降の贈与から、亡くなる7年以内の贈与は相続財産として計算されることになりました(以前は3年でした)。
暦年贈与で110万円以下の贈与をしていた場合、あるいは相続時精算課税制度で贈与を受けていた場合も、死亡日前7年以内の贈与があれば相続税の対象となります。
対策として孫への贈与、あえて贈与しないなどの方法もありますが、有利な条件は人により異なるため、一度専門家に相談したほうがいいでしょう。
亡くなる前に名義変更(生前贈与)をしたい場合の相談先
生前贈与や相続の手続きは煩雑で、「難しい」と感じる人も多いもの。生前贈与と相続、どちらがいいかも個人の資産等によって変わるため、心配な場合は一度、専門家に相談することをおすすめします。
以下に紹介する士業では、それぞれ横のつながりがあるケースが多いため、まずは知り合いなどお近くの士業の先生に相談するといいでしょう。必要に応じて、適した職種を紹介してもらえます。
税理士:
贈与税・相続税対策の相談には、税理士がおすすめです。
司法書士:
登記等の手続きの専門家です。不動産や登記変更の手続きをサポートしてくれます。
行政書士:
契約書など、書類作成の専門家です。書類作成をサポートしてくれます。
ファイナンシャルプランナー(FP):
お金の悩み相談の専門家です。生命保険の見直しなど、財産管理全般の相談が可能です。
金融機関・証券会社:
預貯金や有価証券の名義変更の手続きは、ご利用の金融機関・証券会社に相談しましょう。
まとめ
生前贈与や名義変更は、相続時のトラブルを防ぎ、手続きを簡素化するものとして有効ですが、人により税負担が増えるリスクもあるため慎重に進める必要があります。
自分一人で判断が難しい場合は、専門家に相談しながら進めるといいでしょう。